運営側の事情も分かる。恐らくスクリプターの手が足りなくて、全員分のシナリオをゲームとして完成させる余裕がないのだ。人気のあるキャラクターだけに絞れば、可能かもしれない。けれど、それはそれでまた新たな火種を生むのが目に見えている。
(もうやだ……)
最後まで、一人でも多くのユーザーに残ってもらって、最後の物語を楽しんでもらう。そうすれば、もしかすると続編の希望が出て来るかもしれない。
それを心の支えにして、なんとか書いて来たのに。
淡い期待はいとも簡単に打ち砕かれる。
(私ここで、何やってるんだろう。どんなにあがいても無駄なのに……)
一方で良い知らせもあった。最後のイベントが狙った以上に好評だったのだ。
『アロバラに怒ってる人、気持ちはわかるけど、最後のイベントだけはやって!』
『ほぼ全員とのデートシナリオ! この一年アロバラに費やしてきた時間が報われる内容』
『なんじゃこりゃ、ってなる不思議な物語だけど、糖度高くて満足』
炎上と同時に高評価のポストもそれなりにあり、トレンド欄にはしばらくの間『アロバラ』の文字が躍った。うっかりクリックするとどちらの意見が目に飛び込んでくるか分からないので、私は精神安定のためにいくつか見た後SNSを閉じた。
「なんだあれは」
イベントシナリオが公開された数日後、広場へ気晴らしのため散歩に出た私はジュニパーベリーに呼び止められた。
(ひぃ)
私がここに召喚された日、怖い顔で低い声でベッドを殴りつけた男だ。サンダルウッドと並び、イケオジ枠のキャラクターとなるのもあり、やたら圧が高い。病的なまでに白い肌と射干玉の黒髪、そして深い藍色の瞳が人のぬくもりを感じさせなかった。
「……なんだ、とはなんでしょう」
「今回の特殊任務のことだ」
あ、イベントシナリオの内容についてね。
「なぜ俺が、洞窟の中でタキシードを着ねばならなかったんだ。しかも、花婿姿の」
「熱がある時に見る夢みたいで面白かったでしょ?」
内心ビクつきながらも、私は軽口を叩いて見せた。ジュニパーベリーのこめかみに青筋が浮かぶ。死神のような大男が、震える拳を固める様子が見えた。
「貴様はどこまで行っても、ふざけた真似を……!」
(ぎゃあ!)
私は腕で顔を庇うようにして身を縮める。しかし、いつまで経っても衝撃は襲ってこない。手をはずすと、目の前にはベルガモットの背があった。
「よせ、ジュニパーベリー。何がそんなに気に食わない」
「何もかもだ。この世界を無茶苦茶にした元凶が、俺たちをこけにしたのだぞ」
(こけ?)
そんなことはしていない。コメディタッチの物語に仕立てはしたけれど、彼らを馬鹿にしたつもりはない。最後のお祭りを盛り上げるため、彼らの特性を生かし、これまでの衣装を使うことで一年の思い出が蘇るようして、そして甘いデートのシチュエーションを全員分書きあげたのだ。
メインストーリーは最終決戦で心に関わる物語だから、かなりシリアス路線となる。だから、イベントはあえてコミカルにしたのだ。
気が付けば騒ぎを聞きつけ、他のアロマリアも集まってきていた。それぞれ、私を守るように、ジュニパーベリーとの間の壁になってくれている。ジュニパーベリーは、眉間に深い皺を刻んでいたがふと一人の人物を認め、声を荒げた。
「ベンゾイン! なぜ貴様がそちら側にいる!?」
「ぁあ?」
いつもカフェテリアでジュニパーベリーと共に私を睨んでいたベンゾインが、私を守る側に立っていた。
「何、おっさん」
「おっさ……、何ではないだろう。貴様もこの創造主には失望していたはずだ。縊り殺してやりたいと言っていたはずだ」
うわ、こわ。
ベンゾインは褐色の指で、ハニーブロンドの髪をかきあげた。血の色のような瞳がジュニパーベリーを見返す。
「や、別に今でも、この女のことは好きじゃねぇよ」
「ならばなぜそこに立つ。今回の特別任務、貴様はほぼパンツ一丁という心許ない姿で当たることになったのだぞ!」
イケオジが「パンツ一丁」って言った。
「俺たちを馬鹿にしているとは思わんのか!」
「キヒヒッ」
ベンゾインが舌を見せ、野卑な声で笑った。
「指揮官ちゃんの柔らかい肌に思うさま触れられて、俺はヨかったぜ?」
主に君がビキニパンツ一丁だったせいだけどね。主人公はちゃんと服着てたよ。
「しかも二人して濡れ濡れだったしな」
水に落ちたせいだね。
「結構雰囲気もイイ感じだったし、俺は楽しめたかな。何ならその先に進んでほしいくらいだった」
ピピーッ! アロバラはR―12止まりなので、その先はありません。
「貴様……」
ジュニパーベリーがぶるぶると震えた。
「たったそれだけのことで、怒りを忘れたと言うのか」
「怒りは収まってねぇよ。ただ、あんなイイ思いをさせてくれた相手には、俺だってそれなりに義理立てするさ」
わぁい、ベンゾインが刹那的で欲望に忠実なキャラクターで良かった
「……やってられるか」
ジュニパーベリーがぐるりと背を向けた。
「ジュニパーベリー?」
「俺はお前のような能無しの創造主に従うつもりはない」
「従うつもりがない、とは?」
「最終決戦、俺は不参加とさせてもらう」
ええぇえぇええええ!?
(ちょっと待って、それはまずい!!)
すでに最終章のシナリオは八割方出来ている。その中でも、ジュニパーベリーは割と重要な役割なのだ。闇を抱えているアロマリアだからこそ、敵とシンクロしてしまう。そこを乗り越え救い出し、主人公と気持ちを確かめ合い、先に進むことになるのだ。
「こ、困る! ジュニパーベリーがいなきゃ、話が……」
「知らん。どうせまた小馬鹿にした内容なのだろう」
「違うよ、すっごくシリアスな展開で」
「ともかく、俺は出撃しない。命にかえてもな」
なんでそこまで!
(これってどうなるんだろう)
どんなにジュニパーベリーが抵抗しても、強制力が働いてシナリオ通りに物語は進むと思うのだけど。いや、待てよ……。
(バグ?)
ひょっとしてだが、ゲーム内にジュニパーベリーが表示されないバグが発生する可能性はないだろうか?
バグはどのゲームにも大なり小なり存在する。顔の表情部分が頭部から外れて表示されたゲーム、なんてものもある。
(もしもジュニパーベリーの意思で、非表示バグが発生したら……)
冗談じゃない。ただでさえ今、恋愛イベント未消化でサービス終了が発表され、炎上しているのだ。このままでは「最後までダメな作品だったね」という印象で、ショボショボッと終わってしまう。最後とは思いたくないけど、有終の美を飾りたい気持ちはある。
「あ、あの、ジュニパーベリー? 出撃しないと言うのはさすがにちょっと勘弁してほしいなぁ、みたいな……」
「お前はこの世界を適当に作り、適当に扱って来た能無し創造主だ」
振り向いた彼の氷のような眼差しが、私を貫いた。
「どうせ、適当につじつま合わせをして、適当に茶を濁してくだらない終わらせ方をするつもりなのだろう」
(は?)
カチンときた。
(もうやだ……)
最後まで、一人でも多くのユーザーに残ってもらって、最後の物語を楽しんでもらう。そうすれば、もしかすると続編の希望が出て来るかもしれない。
それを心の支えにして、なんとか書いて来たのに。
淡い期待はいとも簡単に打ち砕かれる。
(私ここで、何やってるんだろう。どんなにあがいても無駄なのに……)
一方で良い知らせもあった。最後のイベントが狙った以上に好評だったのだ。
『アロバラに怒ってる人、気持ちはわかるけど、最後のイベントだけはやって!』
『ほぼ全員とのデートシナリオ! この一年アロバラに費やしてきた時間が報われる内容』
『なんじゃこりゃ、ってなる不思議な物語だけど、糖度高くて満足』
炎上と同時に高評価のポストもそれなりにあり、トレンド欄にはしばらくの間『アロバラ』の文字が躍った。うっかりクリックするとどちらの意見が目に飛び込んでくるか分からないので、私は精神安定のためにいくつか見た後SNSを閉じた。
「なんだあれは」
イベントシナリオが公開された数日後、広場へ気晴らしのため散歩に出た私はジュニパーベリーに呼び止められた。
(ひぃ)
私がここに召喚された日、怖い顔で低い声でベッドを殴りつけた男だ。サンダルウッドと並び、イケオジ枠のキャラクターとなるのもあり、やたら圧が高い。病的なまでに白い肌と射干玉の黒髪、そして深い藍色の瞳が人のぬくもりを感じさせなかった。
「……なんだ、とはなんでしょう」
「今回の特殊任務のことだ」
あ、イベントシナリオの内容についてね。
「なぜ俺が、洞窟の中でタキシードを着ねばならなかったんだ。しかも、花婿姿の」
「熱がある時に見る夢みたいで面白かったでしょ?」
内心ビクつきながらも、私は軽口を叩いて見せた。ジュニパーベリーのこめかみに青筋が浮かぶ。死神のような大男が、震える拳を固める様子が見えた。
「貴様はどこまで行っても、ふざけた真似を……!」
(ぎゃあ!)
私は腕で顔を庇うようにして身を縮める。しかし、いつまで経っても衝撃は襲ってこない。手をはずすと、目の前にはベルガモットの背があった。
「よせ、ジュニパーベリー。何がそんなに気に食わない」
「何もかもだ。この世界を無茶苦茶にした元凶が、俺たちをこけにしたのだぞ」
(こけ?)
そんなことはしていない。コメディタッチの物語に仕立てはしたけれど、彼らを馬鹿にしたつもりはない。最後のお祭りを盛り上げるため、彼らの特性を生かし、これまでの衣装を使うことで一年の思い出が蘇るようして、そして甘いデートのシチュエーションを全員分書きあげたのだ。
メインストーリーは最終決戦で心に関わる物語だから、かなりシリアス路線となる。だから、イベントはあえてコミカルにしたのだ。
気が付けば騒ぎを聞きつけ、他のアロマリアも集まってきていた。それぞれ、私を守るように、ジュニパーベリーとの間の壁になってくれている。ジュニパーベリーは、眉間に深い皺を刻んでいたがふと一人の人物を認め、声を荒げた。
「ベンゾイン! なぜ貴様がそちら側にいる!?」
「ぁあ?」
いつもカフェテリアでジュニパーベリーと共に私を睨んでいたベンゾインが、私を守る側に立っていた。
「何、おっさん」
「おっさ……、何ではないだろう。貴様もこの創造主には失望していたはずだ。縊り殺してやりたいと言っていたはずだ」
うわ、こわ。
ベンゾインは褐色の指で、ハニーブロンドの髪をかきあげた。血の色のような瞳がジュニパーベリーを見返す。
「や、別に今でも、この女のことは好きじゃねぇよ」
「ならばなぜそこに立つ。今回の特別任務、貴様はほぼパンツ一丁という心許ない姿で当たることになったのだぞ!」
イケオジが「パンツ一丁」って言った。
「俺たちを馬鹿にしているとは思わんのか!」
「キヒヒッ」
ベンゾインが舌を見せ、野卑な声で笑った。
「指揮官ちゃんの柔らかい肌に思うさま触れられて、俺はヨかったぜ?」
主に君がビキニパンツ一丁だったせいだけどね。主人公はちゃんと服着てたよ。
「しかも二人して濡れ濡れだったしな」
水に落ちたせいだね。
「結構雰囲気もイイ感じだったし、俺は楽しめたかな。何ならその先に進んでほしいくらいだった」
ピピーッ! アロバラはR―12止まりなので、その先はありません。
「貴様……」
ジュニパーベリーがぶるぶると震えた。
「たったそれだけのことで、怒りを忘れたと言うのか」
「怒りは収まってねぇよ。ただ、あんなイイ思いをさせてくれた相手には、俺だってそれなりに義理立てするさ」
わぁい、ベンゾインが刹那的で欲望に忠実なキャラクターで良かった
「……やってられるか」
ジュニパーベリーがぐるりと背を向けた。
「ジュニパーベリー?」
「俺はお前のような能無しの創造主に従うつもりはない」
「従うつもりがない、とは?」
「最終決戦、俺は不参加とさせてもらう」
ええぇえぇええええ!?
(ちょっと待って、それはまずい!!)
すでに最終章のシナリオは八割方出来ている。その中でも、ジュニパーベリーは割と重要な役割なのだ。闇を抱えているアロマリアだからこそ、敵とシンクロしてしまう。そこを乗り越え救い出し、主人公と気持ちを確かめ合い、先に進むことになるのだ。
「こ、困る! ジュニパーベリーがいなきゃ、話が……」
「知らん。どうせまた小馬鹿にした内容なのだろう」
「違うよ、すっごくシリアスな展開で」
「ともかく、俺は出撃しない。命にかえてもな」
なんでそこまで!
(これってどうなるんだろう)
どんなにジュニパーベリーが抵抗しても、強制力が働いてシナリオ通りに物語は進むと思うのだけど。いや、待てよ……。
(バグ?)
ひょっとしてだが、ゲーム内にジュニパーベリーが表示されないバグが発生する可能性はないだろうか?
バグはどのゲームにも大なり小なり存在する。顔の表情部分が頭部から外れて表示されたゲーム、なんてものもある。
(もしもジュニパーベリーの意思で、非表示バグが発生したら……)
冗談じゃない。ただでさえ今、恋愛イベント未消化でサービス終了が発表され、炎上しているのだ。このままでは「最後までダメな作品だったね」という印象で、ショボショボッと終わってしまう。最後とは思いたくないけど、有終の美を飾りたい気持ちはある。
「あ、あの、ジュニパーベリー? 出撃しないと言うのはさすがにちょっと勘弁してほしいなぁ、みたいな……」
「お前はこの世界を適当に作り、適当に扱って来た能無し創造主だ」
振り向いた彼の氷のような眼差しが、私を貫いた。
「どうせ、適当につじつま合わせをして、適当に茶を濁してくだらない終わらせ方をするつもりなのだろう」
(は?)
カチンときた。



