ゲームの創造神たる私は、サ終と共に滅する運命です【長編版】

 アロバラのサービス終了まで、残り七十九日。
 イベントプロットのOKをいただいてから一週間後、私は完成した五万文字のイベントシナリオを書き上げ、提出した。

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風間ちぐさ様

ありがとうございます。
OKです。
急がせてしまい大変申し訳ないですが、
続けて最終章の執筆に取り掛かってください。
よろしくお願いします。

株式会社クプアス
雨村美果

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 雨村さんからの返信を、私は死んだ目で見つめる。
 あの日、雨村さんから「アロバラは終わるのです」とはっきり伝えられて以来、この世界を救う方法が全く見えなくなってしまった。
 つまり私は七十九日後に、この世界と共に消滅する。
(面白いものを書かなきゃ、楽しんでもらえるものを書かなきゃ。ユーザーの皆が『続けてほしい』と望んでくれるようなものを)
 幾度も自分を鼓舞して、文字を打ち続ける。「死」「消滅」「終」の文字が頭の中にちらつくたび、それらを無理矢理に隅に追いやり、楽しい世界を思い描いて書いた。
 正直なところ、何もかも投げ出してしまいたい。
 私を守ってくれない会社のために、なぜ最期まで義理立てする必要があるのだろう。
(違う)
 今の私は、会社のために書いていなかった。
 楽しんでくれて、今もアロバラに残ってくれている人のために、ただ書き続けている。
 それと、アロマリアの皆の生きた証が一人でも多くのユーザーの心に残ってくれればと、願いながら書き続けていた。
(「続けてほしい」という意見が集まれば、もしかして復活の道が……)

『アロバラは終わるのです』

 微かな希望にすがろうとしても、あの一言がすぐさま打ち砕いてしまう。
 もうやめてしまいたい、手放してしまいたい。
 どうせ無駄だ、頑張っても意味がない。残りの日々を、自分の生み出したイケメンたちに囲まれて楽しく過ごせばいいじゃないか。
 でも、もしかして、もしかすると、ひょっとしたら……。
 私の心を支えているのは、ただその一心だった。もはや自分に無理やり言い聞かせているだけかもしれなかった。
(最終章のシナリオ書かなきゃ。でも、その前に……)

 私は久々にカフェテリアへ足を運んだ。この一週間は、ベルガモットたちが作ってくれるものや、カフェテリアから調達してくれたものを、ひたすら部屋で食べるばかりだった。
(えっと、今日のスペシャルはなんだろ)
 イベントシナリオを書き上げ、無事にOKが出たのだ。今日くらいは、ちょっといいものを食べても許されるだろう。次のシナリオを書く元気と精神力をつけるためにも。
「創造主!」
 背後からやたら張りのある声が、けたたましい足音と共に飛んで来た。
(えっと、この声は確か……)
 振り返れば、相手はもう目の前にいた。熱血少年クベバである。
(あ、死んだ)
 クベバは私を酷く憎んでいた。罵り、殴りかかろうとした人物だ。今、周囲に私を助けてくれる人はいない。浅黒肌の腕が、私に向かって勢いよく伸びて来た。
(……もう、どうでもいいか)
 殴るなら殴れよと、観念して目を閉じた時だった。しなやかな腕が、私をきつく抱きしめたのを感じた。
(え?)
 目を開く。私はクベバの両腕の中にいた。
「ごめん、創造主! 俺、酷いこと言った」
「クベバ?」
「創造主は頑張ってくれてたんだよな? なのに俺、あんたを責めて罵って。こんなにボロボロになるまで一人で戦ってくれているのに」
 ボロボロ?
 私は近くの壁にかかっている鏡へ目をやる。
(うわぁ、これは酷い。女子力の気配すら欠片も残っていない)
 こんな姿で人前に出てきた自分に、少し呆れた。
「俺、嫌ってないから、あんたのこと。ただ、放っておかれたみたいで寂しくて、ガキのように拗ねてただけなんだ。でも、あんたが俺のことも大事に思ってくれてるの、わかったから。もう、無茶はしないでくれよ」
「クベバ……」
 疲れが限界地に達していて、容姿の整った少年に抱きしめられていることに、ときめきや恥じらいを感じる余裕もない。けれど、ひび割れた心に温かな水がじわりとしみ込み、僅かに潤ったのを感じた。
「……ありがとう、クベバ。でも、無茶はやめられないんだ。私にできるのは、これだけだから」
「創造主」
 クベバの腕に、さらなる力がこもる。子どもが自らを庇護する者にすがるようだ、と思った。
(うん、少し元気出た)
 カッサカサに枯れかけていた心に、ぬくもりと力が一滴注がれたようだ。
(あがこう。これは私にしかできないことなんだから)

 最終シナリオの執筆にかかってから、二週間と数日が過ぎた。
 アロバラ最後のイベントが開始され、同時にサービス終了が公式からユーザーへと伝えられた。
『は? 恋愛イベント途中なのに?』
『サ終するなら、恋愛イベント最後までやってからにしろよ』
(そうだった……)
 アロバラには、メインシナリオとイベントシナリオの他に、キャラたちとの恋愛シナリオがある。それぞれ全八話の構成となっていて、アロマリアの彼らとより深く甘いシナリオになっていた。既にすべてのシナリオは提出してあるし、原稿料も振り込まれ済みだ。けれど、ゲーム内で公開しているのは、まだ半分の四話までだった。
(運営さん、やってくれるよね? もう、シナリオは提出してるんだから)
 けれどその期待は数日後に裏切られることとなった。

『最終日までに公開となるのは、メインストーリーの最終話のみとなります』

(うぉおおお、やめろぉおお!!)
 案の定、SNSでは不満が爆発する。

『あっ、はい、終了終了! アロバラ、アンインストールしました!』
『これまで支えて来たユーザー舐め過ぎじゃない? サ終まで付き合う価値なし』
『アロバラに費やした時間、全部返してほしい』

(こんな最後の最後に炎上とか、勘弁してよ……)