ゲームの創造神たる私は、サ終と共に滅する運命です【長編版】

 頭を抱えた私に、そっと手が差し伸べられる。カモミールが私の頭を優しく撫でていた。
「だいじょぶ?」
「う、うん。それよりごめんね」
「ごめん?」
「……カモミールも、一度しかイベントでメインやってないから」
 カモミールが不思議そうに首をかしげる。やがて、またも両手を頭の上に掲げ、耳のようにしてぴょこぴょこと動かした。
「うさぎさん、可愛かったから、ふふ」
 ぐっ、可愛いのはあなたですよ!!
 思わず漏れそうになった声を、両手で抑える。
(やー、でもあれは本当に可愛かったなぁ)
 イースターでピックアップ対象となったのはカモミールの他に、最多出場のチュベローズ、そして賢者のパチュリ。チュベローズやパチュリがややイロモノ感を漂わせていたのに対し、カモミールは文句なしに可愛くて、ファンから大絶賛を浴びていた。これはカモミールのための衣装だと。
(本当に可愛かったなぁ)
 一度手に入れた衣装は、通常の戦闘でも着せられる。とあるユーザーは、うさぎ姿のカモミール、そしてハロウィンイベントの吸血鬼姿のブラックペッパーを並べ、「白うさぎと帽子屋」なんて言って遊んでいたっけ。
「あ……!」
 ひらめいた。
 様々な衣装の人物が入れ代わり立ち代わり現れても、違和感のない物語。
(不思議の国のアリス)
 勿論、そのままのストーリーではない。あの物語のように次々と場面が変わり、おかしな人物が登場し、そして最後は夢から覚めるという流れを使うのだ。
 更に口にかすかに残るカモミールティーの味が、思わぬ着想に繋がった。
 私はノートパソコンで、新規のテキストエディタを開くと、頭の中に思い浮かんだ物語を勢いよく打ち込んでいく。

 大筋はこんなところだ。

■■■

 白うさぎ姿のカモミールに誘われて花の丘でデートする主人公。しかしうっかりと水の中に落ちてしまう。

 溺れる主人公を助けてくれたのは、水着姿のベンゾイン。しかし服が一瞬で乾いている、ことに気付いた主人公は、これが現実ではないことに気付き、夢から覚めたいと願う。甘く危険な香りのベンゾインは主人公に、ここで永遠に孤独を埋め合う関係でいようと誘惑するが、主人公は断る。諦めたベンゾインは森の隠者の所へ行けば何かわかるだろうとアドバイスする。案内をねだる主人公へ、ベンゾインは他の男の元へ送り出す役目はごめんだと突き放す。

 不思議な森には和装のサンダルウッドがいる。サンダルウッドは休ませてくれた上で、目覚めの力を持つ者を探すよう教えてくれる。

 再び歩き出した人公は、やがて豪奢な家へと辿り着く。そこにはハロウィン衣装のブラックペッパーに、エプロンを付けたパチュリがいる。目覚めの力を持つ者を探していると伝えると、ブラックペッパーは自分の持つ刺激的な効能こそが目覚めに繋がるだろうと言うが、血行促進効果でぽかぽかして眠りそうになる。またパチュリは「肌を目覚めさせる」とマッサージをしてくれるが、心地よくてまたしても寝てしまいそうになる。ここはまずいと逃げる主人公。

 逃げ出したものの行く当てもなく困り果ててしまった主人公。そこにバレンタイン服のチュベローズが現れる。怪我を治してくれ、甘いひとときをくれる。刺激的で楽しいデートをしているうちに、ここにずっといたいという気持ちが湧いて来るが、やはり目覚めたいという気持ちで、その場を後にする。

 次には、何やら言い争う声が聞こえてくる。サンタ服のクベバと、祭り服のネロリが、どちらの祭りデートがときめくかで言い争っていた。魅力的な方を選んでほしいと言われ、主人公はそれぞれとデートをすることとなる。二人に取り合いをされ、勝者を問われる主人公。困り果てながらも、こんなにドキドキしているのになぜ目覚めないの、と思う。

 二人から逃げ出し、ナイトプールに辿り着いた主人公。そこには水着姿のベルガモットがいた。しばしそこで休息をした後、ベルガモットはなぜ目覚めたいのか質問してくる。フレグランを放っておけないと答える主人公に、「さすがです」と満足げなベルガモット。しかし、目覚めの効果のある者はここにいないという。ペパーミントを探すように言う。

 海辺にヒントがあると聞き、向かう主人公。洞窟を通る途中で奇妙な空間に巻き込まれ、タキシードのジュニパーベリーとボーイスカウト姿のクラリセージと出会う。「諦めてしまえ、ここも悪くない」と誘惑するジュニパーベリーに対し、力になってあげたいと主張するクラリセージ。二人が言い争う中でいつもの敵が姿を現し、やはりこれは夢だと感じ取る主人公。

 二人に別れを告げ、海辺に辿り着いた主人公。浴衣姿のペパーミントがいる。目覚める方法は分からないけれど、暑さ対策にと’ペパーミント’アロマスプレーを首元へ吹きかけてくれる。その瞬間、ぐにゃりと世界が歪む。

目覚めるとアロマリアの皆が周りにいて主人公を見つめていた。

■■■

 以上だ。
 それぞれのキャラクターに、デートの様なシチュエーションを設ける。
 そしてその甘いやり取りには、彼らの名を冠するアロマの効能を盛り込むのだ。
(これでお願いします!)
 私は雨村さんへプロットを送信する。
 気付けば窓の外は真っ暗で、ベルガモットたちも部屋へと引き上げていた。
(ん? なんだろ、これ)
 ベッドの枕元に見慣れないハンカチが置いてある。そっと手に取ると、ふわりと甘い香りがした。
(これは、カモミールの匂い?)
 確かカモミールの効能は……。

『不安を取り除くリラックスの効果ある、飲んで』

 カモミールの、ふわふわとした儚げな声を思い出した。
 枕元に置いてくれたのは、安眠を促す効果を考えてのことだろう。
 心地の良い疲労感と達成感に包まれ、私はベッドにもぐりこむ。
(プロット、OKが出ますように)


 翌朝目覚めると、既にノートパソコンには返信が届いていた。
(いつもながら雨村さんって、いつ寝てるんだろう)
 そんなことを思いながら、メールを開く。
 最後のイベントシナリオのプロットに関しては、「問題ありません、これで進めてください」とのことだった。ただ……。


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オフライン版、パッケージ版、続編、イラスト集、CD、
その他諸々、予定は一切ございません。

風間先生、アロバラは終わるのです。

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 全ての『別ルート』は、完全に閉ざされていた。