私たち三人は転送装置から、出撃先へと赴く。
初心者向けの‘花の丘’、その次にレベルの高い‘平原’。そして‘森’。
「ははぁ、懐かしいのぅ」
森の中のひときわ大きな大木の元へ、私たちは立っていた。
「最初の特殊任務がこれじゃったな。この大木に飾りつけをするみっしょんじゃった。敵を蹴散らしながらのぅ」
サンダルウッドがぺんぺんと木の幹を叩く。ベルガモットもまた、懐かしそうな眼差しを大樹の上方へと向ける。
「雪の降る頃でしたね。樹の先端に大きな星飾りをつける役目を勝ち取るべく、チュベローズやクベバと競いました」
「……うん」
それはアロバラのリリース後、最初のイベントだ。テーマはクリスマス。なお作中では『聖夜祭』という表記にしていた。
(最初のイベントのメインメンバーは、リリース前の事前アンケートで人気上位だった三人だったんだよね)
私も木肌にそっと手で触れる。
「わ、固い。かなりごつごつしてるね」
次にゆっくり押してみる。びくともしないほど頑丈だった。
「……この樹、こんなだったんだ」
ほのかに漂う樹木の匂いもかぐわしい。
私がイベントの内容を思い出しながら物思いにふけっていると、ゴホンと咳払いの音が聞こえて来た。
「もうえぇかのぅ? 次に行きたいんじゃが」
「えっ……」
「お前さんも、それほど時間に余裕がないんじゃろ?」
そうだった! イベントシナリオのプロット! 締め切り!
「あ、じゃあこの辺でそろそろ部屋に……」
「せっかちじゃのぅ。儂とのでぇとは始まったばかりじゃ」
いや、時間に余裕がないって言ったのあなただよ!
キャンプのイベントをした‘川沿い’、そしてその川から繋がるのが‘海辺’。
「ここへは二月連続で出撃したのぅ」
寄せては返す白波を、サンダルウッドは目を細めて見つめる。
「だね」
七月のテーマは夏祭り。地元の人たちが海辺で行う花火大会を、敵の妨害から守って無事開催させるという内容だった。特殊衣装は浴衣。
「あれはなかなか変わった衣でしたね。大股で歩くと裾が割れて足が露出すると、チュベローズが文句を言っておりました」
「あったあった」
実はチュベローズが大きく足を一歩踏み出して、膝の少し上まで露わになったスチルは、ユーザーに大人気だった。それまでも人気の高かったチュベローズだけど、あのスチルが決めてになり、キャラ人気のトップの座が確定したのを覚えている。浴衣が実装された他の二人は、ツンデレのペパーミント、そして図書館の主である賢者のパチュリだ。二人はやけに「色香がやばい」「人妻感すごい」と言われていた。
「続く八月は、海水浴」
「やけにダメージ態勢の低い特別装備が配られたと、クラリセージが狼狽えておったわ」
サンダルウッドがおかしそうに笑う。
そう、このイベントのメインに選ばれたのは、ベルガモットと共に私を気遣ってくれるクラリセージ。そしてカフェテリアでこちらを睨みつけていたベンゾイン。
真面目で物腰の柔らかいクラリセージは、サーフパンツにパーカー装備の露出度控えめのもの。ベンゾインは、セクシーなビキニタイプを堂々と着ていた。
(……最初のアロバラ炎上が、このイベントだったな)
メインに選ばれた最後の一人が、ペパーミントだったのだ。水着のタイプはラッシュガード。七月の浴衣イベントに続いての抜擢だったため、贔屓だとかなり燃えた。
(それどころかペパーミントは、次の月の『豊穣祭』でもまさかのメインで、この辺りからユーザーからいろいろ言われるようになったんだよね)
思い出すたびに胸がヒリヒリする。
私も「あれ?」とは思ったのだ。ペパーミントの特殊衣装絡みの甘いシナリオが、連続して依頼されたから。けれど、私は所詮雇われライターだ。望まれたシナリオをただ書くだけだと思い直した。すでに新たな衣装を着た立ち絵やスチルを発注していると言われれば、それ以上何も言えない。仕事だと割り切って書いた。
「……はぁ」
思い出すと気持ちが重くなる。
「水着は、自分も後に実装されましたが」
ベルガモットが話しかけて来た。
「海では使っていませんね」
「ナイトプールだったからね、ベルガモットが選ばれたイベントは」
艶めかしい照明の下で映し出された彼の肢体を思い出す。あの時ばかりは、特殊衣装が出るまで課金した。三万ほど飛ばした。それでも悔いはなかった。
「ふふ」
ベルガモットの艶姿を思い出し、ほんの少し気持ちが上を向く。ふとサンダルウッドを見れば、彼は海に続く洞窟を見つめていた。
「洞窟がどうかした、サンダルウッド?」
「あぁ、八月の出撃は、主戦場が海辺ではなくあの洞窟じゃったと懐かしく思うてな」
「そうだったね」
「じゃから、クラリセージらも実際に敵と戦う時は普段の装備で助かったと安堵しておった。水着は最後の最後、目的地に着いてからだったからのぅ」
サンダルウッドの言葉で、私も当時のゲーム画面を思い出す。皆で海に行こうという話になったけれど、途中の道に敵が現れて進めないという内容だった。それでクラリセージ、ベンゾイン、ペパーミントの三人と共に主人公が別ルートである洞窟を進み、正規のルートを進んだ残りのメンバーと共に、敵を挟み撃ちにするという流れだった。
「別ルートで進んだんじゃったな、あれらは」
「別動隊にも、もう少し人員割いてもいいと思うんだけどね。さすがに三人って」
「別動隊の存在に気付かせないため、あえて人数を絞ったと説明があったのぅ」
それが先方からの指示だった。だから、私は書いた。
(「指示だから」「依頼だから」。……私って、そればっかりだな)
「のぅ、創造主よ」
「ん?」
「この世界の別ルートを作ることは出来んかのぅ?」
はい?
初心者向けの‘花の丘’、その次にレベルの高い‘平原’。そして‘森’。
「ははぁ、懐かしいのぅ」
森の中のひときわ大きな大木の元へ、私たちは立っていた。
「最初の特殊任務がこれじゃったな。この大木に飾りつけをするみっしょんじゃった。敵を蹴散らしながらのぅ」
サンダルウッドがぺんぺんと木の幹を叩く。ベルガモットもまた、懐かしそうな眼差しを大樹の上方へと向ける。
「雪の降る頃でしたね。樹の先端に大きな星飾りをつける役目を勝ち取るべく、チュベローズやクベバと競いました」
「……うん」
それはアロバラのリリース後、最初のイベントだ。テーマはクリスマス。なお作中では『聖夜祭』という表記にしていた。
(最初のイベントのメインメンバーは、リリース前の事前アンケートで人気上位だった三人だったんだよね)
私も木肌にそっと手で触れる。
「わ、固い。かなりごつごつしてるね」
次にゆっくり押してみる。びくともしないほど頑丈だった。
「……この樹、こんなだったんだ」
ほのかに漂う樹木の匂いもかぐわしい。
私がイベントの内容を思い出しながら物思いにふけっていると、ゴホンと咳払いの音が聞こえて来た。
「もうえぇかのぅ? 次に行きたいんじゃが」
「えっ……」
「お前さんも、それほど時間に余裕がないんじゃろ?」
そうだった! イベントシナリオのプロット! 締め切り!
「あ、じゃあこの辺でそろそろ部屋に……」
「せっかちじゃのぅ。儂とのでぇとは始まったばかりじゃ」
いや、時間に余裕がないって言ったのあなただよ!
キャンプのイベントをした‘川沿い’、そしてその川から繋がるのが‘海辺’。
「ここへは二月連続で出撃したのぅ」
寄せては返す白波を、サンダルウッドは目を細めて見つめる。
「だね」
七月のテーマは夏祭り。地元の人たちが海辺で行う花火大会を、敵の妨害から守って無事開催させるという内容だった。特殊衣装は浴衣。
「あれはなかなか変わった衣でしたね。大股で歩くと裾が割れて足が露出すると、チュベローズが文句を言っておりました」
「あったあった」
実はチュベローズが大きく足を一歩踏み出して、膝の少し上まで露わになったスチルは、ユーザーに大人気だった。それまでも人気の高かったチュベローズだけど、あのスチルが決めてになり、キャラ人気のトップの座が確定したのを覚えている。浴衣が実装された他の二人は、ツンデレのペパーミント、そして図書館の主である賢者のパチュリだ。二人はやけに「色香がやばい」「人妻感すごい」と言われていた。
「続く八月は、海水浴」
「やけにダメージ態勢の低い特別装備が配られたと、クラリセージが狼狽えておったわ」
サンダルウッドがおかしそうに笑う。
そう、このイベントのメインに選ばれたのは、ベルガモットと共に私を気遣ってくれるクラリセージ。そしてカフェテリアでこちらを睨みつけていたベンゾイン。
真面目で物腰の柔らかいクラリセージは、サーフパンツにパーカー装備の露出度控えめのもの。ベンゾインは、セクシーなビキニタイプを堂々と着ていた。
(……最初のアロバラ炎上が、このイベントだったな)
メインに選ばれた最後の一人が、ペパーミントだったのだ。水着のタイプはラッシュガード。七月の浴衣イベントに続いての抜擢だったため、贔屓だとかなり燃えた。
(それどころかペパーミントは、次の月の『豊穣祭』でもまさかのメインで、この辺りからユーザーからいろいろ言われるようになったんだよね)
思い出すたびに胸がヒリヒリする。
私も「あれ?」とは思ったのだ。ペパーミントの特殊衣装絡みの甘いシナリオが、連続して依頼されたから。けれど、私は所詮雇われライターだ。望まれたシナリオをただ書くだけだと思い直した。すでに新たな衣装を着た立ち絵やスチルを発注していると言われれば、それ以上何も言えない。仕事だと割り切って書いた。
「……はぁ」
思い出すと気持ちが重くなる。
「水着は、自分も後に実装されましたが」
ベルガモットが話しかけて来た。
「海では使っていませんね」
「ナイトプールだったからね、ベルガモットが選ばれたイベントは」
艶めかしい照明の下で映し出された彼の肢体を思い出す。あの時ばかりは、特殊衣装が出るまで課金した。三万ほど飛ばした。それでも悔いはなかった。
「ふふ」
ベルガモットの艶姿を思い出し、ほんの少し気持ちが上を向く。ふとサンダルウッドを見れば、彼は海に続く洞窟を見つめていた。
「洞窟がどうかした、サンダルウッド?」
「あぁ、八月の出撃は、主戦場が海辺ではなくあの洞窟じゃったと懐かしく思うてな」
「そうだったね」
「じゃから、クラリセージらも実際に敵と戦う時は普段の装備で助かったと安堵しておった。水着は最後の最後、目的地に着いてからだったからのぅ」
サンダルウッドの言葉で、私も当時のゲーム画面を思い出す。皆で海に行こうという話になったけれど、途中の道に敵が現れて進めないという内容だった。それでクラリセージ、ベンゾイン、ペパーミントの三人と共に主人公が別ルートである洞窟を進み、正規のルートを進んだ残りのメンバーと共に、敵を挟み撃ちにするという流れだった。
「別ルートで進んだんじゃったな、あれらは」
「別動隊にも、もう少し人員割いてもいいと思うんだけどね。さすがに三人って」
「別動隊の存在に気付かせないため、あえて人数を絞ったと説明があったのぅ」
それが先方からの指示だった。だから、私は書いた。
(「指示だから」「依頼だから」。……私って、そればっかりだな)
「のぅ、創造主よ」
「ん?」
「この世界の別ルートを作ることは出来んかのぅ?」
はい?



