ゲームの創造神たる私は、サ終と共に滅する運命です【長編版】

「んぉ?」
 ノートパソコンからSNSにアクセスできることに気付いた私はエゴサに挑み、『アロバラ』にある変化が起きたことを知った。
 それは一人のユーザーの発言だった。

『アロバラのログボに、スキップボタン実装されてる!』

(マジで!?)
 添付された画像には、右上にしっかりと『SKIP』と書かれたボタンが映り込んでいた。これまでなかったものだ。
(やったぁ! これでログボが少しでも煩わしくなくなるはず!)
 ウキウキしながら件の発言のツリーを覗く。しかしそこに並んでいたのは、辛辣な言葉だった。
『今更!? もっと早くやっとけよ』
『リリースの時からこれがあれば、ここまで離脱する人いなかったんじゃない?』
『毎回毎回台詞言い終わるの待つの、まじダルかった』
 耳に痛い……、というか目に痛いアクションが並んでいる。だがその中にも
『時間短縮ありがたい! 運営さんありがとう!』
『サクサク進めて気持ちいい!』
と好意的な発言もあり、私はヒリつく胸を抑えながらもほんの少し安堵した。
(やっぱり私と同じように感じていた人、多かったんだ)
 サ終を目の前にして、システムを改善してくれた運営さんに密かに感謝する。

――システム面に関するご提案、ありがとうございます。
  こちらに関しましては、社の者で判断いたしますので、――

 あの時、素っ気ない返事ではあったけれど、ちゃんと耳を傾けてくれていたことが伝わって来て嬉しくなった。
(だけど……)
 これだけでは、ユーザーが離脱するスピードや可能性を下げたに過ぎない。
(この世界が消えずに済むには、他にどうしたら……)

「最終話の流れは決まったのではないのですか?」
 ノートパソコンを立ち上げ、真っ白のテキストエディタを前にうんうん唸っていた私の側に、お茶を持ったベルガモットが現れた。  うっかり紅茶をパソコンにこぼして大惨事にならぬよう、サイドテーブルを持ってきておいてくれる辺り、気が利いている。
「うん、そっちは決まったんだけど、担当さんから……」
「また何か、無理難題を?」
 いや、別に無理難題を言われているわけじゃなんだ、私は。先方に異世界転移に関する理解がないだけで、仕事内容は常識の範囲内である。と言うか、異世界転移を現実のものとしてあっさりと受け止める大人がいたら、それはそれでちょっと怖い。
「ラストのメインシナリオの前に、ラストのイベントを開催するから、そちらのシナリオを先に書いてほしいって返事が来たんだ。でもって、そのプロットを早く、と」
「ラストのイベント、ですか。イベントと言えば、例の特別な効果のある服を着て挑む任務でしょうか」
 私はぐーっと背筋を伸ばし、首を横に振る。
「今回は新規衣装なし。これまで実装された衣装を全て、好きに使っていいらしいけど」
 これまでの衣装と言えば、季節の行事に合わせたものばかりで統一感がまるでない。サンタ衣装と浴衣とバニー服とハロウィン衣装が一堂に会するイベントなんて、どうすればいいのだろう。どういう出撃シチュエーションなのだろう。
 プロットの締め切りまで三日ほど。それまでに限られた背景画像と衣装が生きる物語を思いつかねばならない。そして最も大事なのは、プレイした人が「アロバラに最後まで付き合おう」と思ってくれる、物語を書くことだ。
(何も思い付かな過ぎて、胃が痛い)
 何か、発想のきっかけがあれば……。

「邪魔するぞい」
 ノックの音と共に、一人のアロマリアが姿を露わした。
「サンダルウッド……」
「なにやらここで、面白げな会合が開かれてると聞いてな。儂も仲間に入れてやってくれ。ベルガモット、儂にも茶を」
「あ、あぁ」
 じじむさい口調で飄々と振舞うのは、サンダルウッド。その物腰に対して、浅黒い肌にワインレッドの髪がかなりスパイシーだ。濃い目の色合いの中で淡いグリーンの瞳が涼やかである。サンダルウッドはアロマリアの中では年配者だが、あくまでもイケオジ枠であり老人ではない。
「面白げな会合って、別に開いてないけど」
「んん~? この世界の滅亡を防ぐための秘密会議が行われてると聞いたぞ?」
 まぁ、間違ってはいませんが。
「はっはっは、心が躍るのぅ」
 踊らないよ、世界の滅亡だからね? 死ぬよ?
「どうぞ」
 ベルガモットが湯気の立つティーカップをサンダルウッドに渡す。
「おお、すまんなぁ」
 優雅な仕草で紅茶をすするその姿は、普通にイケメンである。
「それで、何か手立ては思い付いたかの?」
「……ユーザーさんたちが、面白いからこの先も続けてほしいって思うようなシナリオを書く。システム面への口出しはほぼ不可能だし、シナリオライターの私にできるのはそれくらいだから」
「弱いのぅ」
 サンダルウッドはニコニコしながらそう言い放った。あまりにもにこやかに言われたため、脳が好意的な言葉と受け止めてしまい、時間差で意味を解してダメージをくらう。
「じゃ、じゃあ、どうしろっていうんですかぁ……」
 しょげた私に、ベルガモットが駆け寄ってくる。彼の手が私の肩に触れると、彼の放つほんのりビターで爽やかな香りが、私をガードしてくれるように漂った。
「お前さん、チュベローズとあちこち足を運んだそうじゃの」
「うん」
「どこを見た?」
「えぇと、カフェテリアと闘技場と、バーと温泉施設と……」
 私の返事に、サンダルウッドは「ふむ」と顔を引き締める。
「このアロマリアの施設内だけか」
「あっ、転送装置で花の咲く丘には行った」
「海辺は見たか?」
 私は首を横に振る。
「よし、わかった」
 サンダルウッドはティーカップを置くと立ち上がった。
「創造主よ、今から儂とでぇとするぞ」
「デート?」
「そうじゃ。何かを考えるには刺激が必要じゃ。風を知り、音を知り、匂いを知る。このように、部屋にこもって同じ光景ばかり見ていても駄目じゃ。さ、行くぞ」
「え、ちょ!」
 サンダルウッドは私の手首を掴み、出口に向かって歩き出す。
「待て、サンダルウッド」
「なんじゃ、ベルガモット。お前さんもでぇとが希望か?」
「そうではなく。千枝をそのように強引に扱うのは」
「多少強引に扱われることに、ドキドキする女子もおるらしいぞ」
 う~ん、それはそうなんだけど。好きな人限定でね? 壁ドンも頭なでなでも、すでに好意がカンストしている相手からしか、嬉しくないよ?
 てか、令和のコンプラに配慮して生み出された君たちが、平成の感覚持ってるのも面白いね。この辺が、私の中から生まれたってことなのかな。
「なら、俺も同行する。千枝を守る人間は多い方がいい」
 先日とは違い、ベルガモットが強気に出る。サンダルウッドはクスリと笑うと「好きにすりゃえぇ」と言った。