ゲームの創造神たる私は、サ終と共に滅する運命です【長編版】

「……思いとどまってくれるかな」
 期待半分諦め半分の顔つきで、クラリセージは曖昧に微笑む。
「分からない。でも、私も出来る限りのことをするよ。みんなを死なせたくないから。このメールだって、私にしかできないことの一つ」
 実際のところ、前回の雨村さんの返信からは軽い苛立ちのようなものが伝わって来た。わかってる、私は無理なことを言っている。わけのわからないことを言っている。
 それでもなりふり構っていられない事情があるから。
(あ)
 着信音が雨村さんからの返信を伝える。
(やけに早いな)
 嫌な予感がしつつも、私はメールを開いた。

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風間ちぐさ様

AIで遊んでないで、そろそろプロっと上げてください

株式会社クプアス
雨村美果

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(『プロっと』って何!?)
 あまりにも素っ気ない一行。もはや最初の挨拶もない。その上、誤字も直していない。
「いい加減にしろ」という秘められし感情が痛いほど伝わって来た。思わず床の上に崩れ落ちてしまう。
「どうやら先方には伝わらなかったようだね」
「……はい」
 パチュリの淡々とした声がつらい。
(絶対面倒くさいやつって思われた。二度と依頼が来なさそう。いや、私はもうここで滅ぶから次の依頼なんてそもそも受けられないんだけどね、へへっ)
「千枝」
 ベルガモットが駆け寄ってきて、私を支える。
「まずはソファに座りましょう。お茶を淹れますから、この先のことを皆で考えましょう。我々はあなた一人に押し付けたりしません」
「そうそ、創造主ちゃん」
 ネロリも反対側から私を支えてくれる。
「創造主ちゃんが精いっぱい頑張ってくれていることは、オレらがちゃんと見てるから。それで駄目なら……」
 ネロリの声が低くなる。私は顔を上げた。落ち着いたグリーンの瞳が私を優しく見つめていた。
「……結果はちゃんと受け入れるから」
「ネロリ……」
 いつの間にかベルガモットのいた側にはクラリセージがいた。私は二人に支えられ立ち上がる。ソファに腰かけると、ベルガモットがお茶を差し出してきた。
「どうぞ、気持ちが落ち着きます」
「……ありがとう」
 私はアールグレイを口に含む。幾度となく、つらい状態の私を温めてくれたこの味に、涙が出そうになった。
「なんだか……ふふっ」
 パチュリが皮肉めいた笑みを浮かべる。
「いくら必死に訴えても届かない言葉。そして、この世界を消滅させる意思と、それを実行する圧倒的な力を持つ相手。君がメールを送った相手こそ、魔王のようだね」
「本当だよ。血も涙もない」
 感情のタガがぷつんと外れた。
「雨村さんの鬼―! 悪魔―! 人でなしー! 大魔王!!」
 私はその場でみっともなくジタジタと足を踏み鳴らす。
「私が死ぬかもって言ってるでしょー! なのに返ってくるのは進捗のことだけ? 所詮私なんて、使い捨ての雇われシナリオライターですし? 大ヒット作を生み出せなかったへっぽこライターなんて、いつ切ってもダメージ0って言いたいんですか?」
 髪を振り乱し、恥も外聞もなく叫ぶ。
 その時、時間差でパチュリの言葉が脳にしみこんできた。
「……魔王?」
 振り返ると、パチュリは静かな眼差しで私を見ている。
「ん? どうかした?」
「それだ」
「それ?」
「この世界を滅ぼす魔王は、彼らってことにしよう」
 私の言葉を理解しかねたのか、パチュリはベルガモットに問うような眼差しを向ける。
「あぁ、それなのだが、実はな……」
 ベルガモットが、この世界の魔王という存在は、実に曖昧に設定されていたとパチュリに伝える。
「それで物語を締めくくるためには、設定を固めなくてはならないという話をしていたのだ」
「なるほどね」
 心の中がふつふつと沸騰する。
 散々「今後のために設定は曖昧に」と言っていたことが、あだになった。設定をいい加減にしていることはきっと、ユーザーに伝わっていた。
「世界を適当に扱う。そしていらなくなったらあっさりと滅ぼす。それこそがこの世界の魔王なんだ」
 乙女ゲーだから、魔王もイケメンにすべきだと思っていた。アロバラを執拗に攻撃するのも理由があって、そこには女性プレイヤーがキュンとなる切ない裏話があって……。
 だけど、そういうのはかなぐり捨てる。どうせ残りの期間じゃ、こんな設定語り切れない。取ってつけたような、無理矢理ハイスピードで駆け抜けるような、「俺たちの戦いはこれからだ! 風間先生の次回作にご期待ください!」エンド待ったなしだ。
「なら、これまでアロバラ世界をじわじわと蝕んでいた全てが、魔王の意思だったと描いてやる」
 イケメンの造形なんていらない。じわじわとした瘴気のような、言葉の通じない存在。魔王はそれでいい。
「養分にする目的で生み出して、養分を吸いつくした後はぽいっと捨てる。そこに生きる住人の命なんて、埃ほどの重みを感じていない、血も涙もない存在! それがアロバラの魔王だ!」
 かくして、完全に私の逆恨みと悪意とブチ切れによる魔王設定は固まった。
 それを叩き込んだプロットも、あっさりOKが出た。

「魔王グラフィックを追加発注しなくてよくなって助かります」
との返事だった。