目を白黒させる私を置き去りに、カモミールは再び鶏粥を食べることに戻る。口に完全に入れられてしまった以上吐き出すわけにもいかず、私は海老餃子を咀嚼した。
(うっま)
ぷりぷりの歯ごたえに、絶妙な塩加減。具を包むモッチモチつるつるの生地。
思わずうっとりした私だったが、すぐさまベルガモットたちのもの言いたげな視線に気付く。「自分のは受け取らなかったのに」と、とても分かりやすい顔つきだ。
「今のは不可抗力でしょ?」
私が慌てて言うと、彼らは不承不承ながらも無理やり自らを納得させつつ食事に戻って行った。そして、当のカモミールはと言えば、我関せずといった様子だ。何故この空気で平然としている。君だよ、この空気作ったの。
なんとなく次の話題が出ず、皆でもくもくと朝食を口に運んでいた時だった。
「あ」
突如、カモミールが声を上げる。今度はなんだ?
「魔王……」
その言葉に、私たちの間にピリッとした緊張が走った。
(そうだ、カモミールには予知の力がある。サ終に気付いて皆に知らせたのも彼だった!)
周囲を見回せば、怖いイケオジのジュニパーベリーとワルなチャラ男ベンゾイン、直情径行クベバの姿がある。
(その話題は、ここでは避けてくれないかな。『実は魔王の設定はちゃんとできていません。あなたたちはよく分からないものと戦わされていました、てへぺろりん♪』ってばれたら、彼らがどれだけ激昂するか)
カモミール、余計なこと言わないでね?と視線をチラチラ送ってみたが、彼はそういう心の機微に気付くタイプではない。彼はこちらにはちみつ色の瞳を向けると、口を開いた。
「はっきり姿が見えて来るね。大丈夫だよ、創造主」
(え?)
はっきり姿が見える? 魔王が? 大丈夫って? 何が何?
クエスチョンマークだらけの私は、どこから聞き返せばいいかもわからない。そうこうしているうちにカモミールは、ポカンとしている私を取り残し、トレイを持って立ち去ってしまった。
えっ、ちょっと待って? マイペース過ぎるでしょ、この気まぐれマーメイドめ!
朝食を終えた私たちは私の部屋に集合することにした。先ほどカモミールが口にした「魔王の姿がはっきり見える」について、話し合うためだ。
(ん?)
足音が一つ多いのに気付く。振り返った先に立っていたのは、パチュリだった
「やぁ」
眼鏡の奥の目を柔らかに細め、きちっと切りそろえられたワインレッドの髪を軽く揺らす。指を揃えたきれいな手つきで、こちらへ掌を向けている。
「パチュリ、どうしたの?」
「ん? 貴女たちはこれから何やら話し合うんだろう? 私も同席させてもらっていいかな」
(え……)
アロバラの賢者ポジションのパチュリに、事情を話すかどうか迷う。魔王という存在が実はあやふやなままで、これから作り出すのだと知ればどんな顔をするだろう。しかし、ここで断るのもまずい気がする。先ほども言ったが彼はアロバラの賢者ポジションだ。有能な彼を味方につけておいた方がいいだろう。大丈夫、彼は穏やかなタイプだ。いきなり殴りかかっては来ないだろう、クベバみたいに。
「じゃ、じゃあ、どうぞ」
「うん。お邪魔させてもらうね」
眼鏡の奥の瞳には、油断ならない光が潜んでいるように見えた。
(それにしても……)
私は部屋に入って来たベルガモットたち四人を振り返り眺める。
(絵になるなぁ)
スラリと足の長いモデル体型のイケメンが並んでいる様は、ジャケット写真か何かの様だ。
(本当に、なんでここにスマホがないんだろう!)
せっかく彼らを様々な角度から、ゲームにないシチュエーションで撮れるチャンスだというのに。
(それに彼らを撮ることさえ出来れば、担当の雨村さんに送りつけて、私が今アロバラの世界に囚われていることを伝えられるのに。それを見せることさえできれば、信じてもらえるかもしれないし、ひょっとしたらサービス終了に関しても何か変化が起こるかもしれないのに)
そこで、はたと気付く。
(そうだ、ノートパソコンでも撮れなくはない)
私はリモート打ち合わせの時に使ったアプリを立ち上げる。自分の顔がしっかりと映るのを確認し、ベルガモットたちを呼び寄せた。
「何をするのでしょうか」
「みんな寄って寄って。この画面内に収まるように寄って」
私を中心に四人がぎゅっと身を寄せる。
(う……、つらい)
画面に並ぶは、プロイラストレーターによる美麗グラフィックを元にした、顔面国宝の青年たち。それらに囲まれると自分の顔があまりにも平凡で、一緒に並ぶのがしんどい。
(でも、雨村さんに信じてもらうには、私も一緒に映り込まなくては)
「創造主ちゃん、なにこれ?」
「担当さんに画像を送るの」
「なんで?」
「アロバラの皆が存在していて、本当に命の危機に晒されてると理解してくれたら、サ終のこと考え直してくれるかもしれないでしょ?」
(さすがに、「別に異世界の人間が死のうがどうでもよくない?」ってほど薄情じゃないと信じてるよ、雨村さん!)
私自身は「HELP!」と手書きした紙を手に持つ。
「はい、スクリーンショット撮るから、全員いい感じのポーズとって!」
その瞬間、まるで段取りが決まっていたかのように四人はきれいにポーズを決める。
ベルガモットは恭しく胸元に片手をやり、ネロリは陽キャらしくハートサインにウィンク、幼馴染系クラリセージはあえてポーズをとらず楽な姿勢で柔らかく微笑み、知性派パチュリは斜めを向き眼鏡に手を添え謎めいた笑みを浮かべた。
彼らが完璧である分、私の平々凡々とした顔が同じ画面に収まるのがつらい。しかし、そうも言っていられない。
「じゃあ、いくよ。えいっ」
私はキーを押す。すぐさまグラフィックソフトを開き、新規データに『ペースト』と操作すれば、撮ったばかりの画像がそこに表示された。
「これで、みんなの写った所だけを切り取って……」
スマホで撮ったよりは素朴な出来だが、何とか集合写真は撮れた。
私はそれを雨村さんへのメールに添付する。
―――――――――――――――――――――――
株式会社クプアス
雨村様
お世話になっております。
以前お伝えした、アロバラの世界へ転移させられた件につきまして
証拠画像を添付してお送りいたします。
画像のように、今私は、アロマリアの皆と共にいます。
このままではアロバラのサ終と共に、私も消滅してしまうでしょう。
本当に申し訳ございませんが、サ終を思いとどまっていただくわけにはいきませんか?
会社での決定というのは重々承知です。
サーバーの問題や、運営資金の問題があることも存じております。
それでも今一度、考え直していただけますようよろしくお願いします。
風間ちぐさ
―――――――――――――――――――――――
私は両手を合わせ、目の前に雨村さんがいるように深く深くお辞儀した後、送信ボタンを押した。
(うっま)
ぷりぷりの歯ごたえに、絶妙な塩加減。具を包むモッチモチつるつるの生地。
思わずうっとりした私だったが、すぐさまベルガモットたちのもの言いたげな視線に気付く。「自分のは受け取らなかったのに」と、とても分かりやすい顔つきだ。
「今のは不可抗力でしょ?」
私が慌てて言うと、彼らは不承不承ながらも無理やり自らを納得させつつ食事に戻って行った。そして、当のカモミールはと言えば、我関せずといった様子だ。何故この空気で平然としている。君だよ、この空気作ったの。
なんとなく次の話題が出ず、皆でもくもくと朝食を口に運んでいた時だった。
「あ」
突如、カモミールが声を上げる。今度はなんだ?
「魔王……」
その言葉に、私たちの間にピリッとした緊張が走った。
(そうだ、カモミールには予知の力がある。サ終に気付いて皆に知らせたのも彼だった!)
周囲を見回せば、怖いイケオジのジュニパーベリーとワルなチャラ男ベンゾイン、直情径行クベバの姿がある。
(その話題は、ここでは避けてくれないかな。『実は魔王の設定はちゃんとできていません。あなたたちはよく分からないものと戦わされていました、てへぺろりん♪』ってばれたら、彼らがどれだけ激昂するか)
カモミール、余計なこと言わないでね?と視線をチラチラ送ってみたが、彼はそういう心の機微に気付くタイプではない。彼はこちらにはちみつ色の瞳を向けると、口を開いた。
「はっきり姿が見えて来るね。大丈夫だよ、創造主」
(え?)
はっきり姿が見える? 魔王が? 大丈夫って? 何が何?
クエスチョンマークだらけの私は、どこから聞き返せばいいかもわからない。そうこうしているうちにカモミールは、ポカンとしている私を取り残し、トレイを持って立ち去ってしまった。
えっ、ちょっと待って? マイペース過ぎるでしょ、この気まぐれマーメイドめ!
朝食を終えた私たちは私の部屋に集合することにした。先ほどカモミールが口にした「魔王の姿がはっきり見える」について、話し合うためだ。
(ん?)
足音が一つ多いのに気付く。振り返った先に立っていたのは、パチュリだった
「やぁ」
眼鏡の奥の目を柔らかに細め、きちっと切りそろえられたワインレッドの髪を軽く揺らす。指を揃えたきれいな手つきで、こちらへ掌を向けている。
「パチュリ、どうしたの?」
「ん? 貴女たちはこれから何やら話し合うんだろう? 私も同席させてもらっていいかな」
(え……)
アロバラの賢者ポジションのパチュリに、事情を話すかどうか迷う。魔王という存在が実はあやふやなままで、これから作り出すのだと知ればどんな顔をするだろう。しかし、ここで断るのもまずい気がする。先ほども言ったが彼はアロバラの賢者ポジションだ。有能な彼を味方につけておいた方がいいだろう。大丈夫、彼は穏やかなタイプだ。いきなり殴りかかっては来ないだろう、クベバみたいに。
「じゃ、じゃあ、どうぞ」
「うん。お邪魔させてもらうね」
眼鏡の奥の瞳には、油断ならない光が潜んでいるように見えた。
(それにしても……)
私は部屋に入って来たベルガモットたち四人を振り返り眺める。
(絵になるなぁ)
スラリと足の長いモデル体型のイケメンが並んでいる様は、ジャケット写真か何かの様だ。
(本当に、なんでここにスマホがないんだろう!)
せっかく彼らを様々な角度から、ゲームにないシチュエーションで撮れるチャンスだというのに。
(それに彼らを撮ることさえ出来れば、担当の雨村さんに送りつけて、私が今アロバラの世界に囚われていることを伝えられるのに。それを見せることさえできれば、信じてもらえるかもしれないし、ひょっとしたらサービス終了に関しても何か変化が起こるかもしれないのに)
そこで、はたと気付く。
(そうだ、ノートパソコンでも撮れなくはない)
私はリモート打ち合わせの時に使ったアプリを立ち上げる。自分の顔がしっかりと映るのを確認し、ベルガモットたちを呼び寄せた。
「何をするのでしょうか」
「みんな寄って寄って。この画面内に収まるように寄って」
私を中心に四人がぎゅっと身を寄せる。
(う……、つらい)
画面に並ぶは、プロイラストレーターによる美麗グラフィックを元にした、顔面国宝の青年たち。それらに囲まれると自分の顔があまりにも平凡で、一緒に並ぶのがしんどい。
(でも、雨村さんに信じてもらうには、私も一緒に映り込まなくては)
「創造主ちゃん、なにこれ?」
「担当さんに画像を送るの」
「なんで?」
「アロバラの皆が存在していて、本当に命の危機に晒されてると理解してくれたら、サ終のこと考え直してくれるかもしれないでしょ?」
(さすがに、「別に異世界の人間が死のうがどうでもよくない?」ってほど薄情じゃないと信じてるよ、雨村さん!)
私自身は「HELP!」と手書きした紙を手に持つ。
「はい、スクリーンショット撮るから、全員いい感じのポーズとって!」
その瞬間、まるで段取りが決まっていたかのように四人はきれいにポーズを決める。
ベルガモットは恭しく胸元に片手をやり、ネロリは陽キャらしくハートサインにウィンク、幼馴染系クラリセージはあえてポーズをとらず楽な姿勢で柔らかく微笑み、知性派パチュリは斜めを向き眼鏡に手を添え謎めいた笑みを浮かべた。
彼らが完璧である分、私の平々凡々とした顔が同じ画面に収まるのがつらい。しかし、そうも言っていられない。
「じゃあ、いくよ。えいっ」
私はキーを押す。すぐさまグラフィックソフトを開き、新規データに『ペースト』と操作すれば、撮ったばかりの画像がそこに表示された。
「これで、みんなの写った所だけを切り取って……」
スマホで撮ったよりは素朴な出来だが、何とか集合写真は撮れた。
私はそれを雨村さんへのメールに添付する。
―――――――――――――――――――――――
株式会社クプアス
雨村様
お世話になっております。
以前お伝えした、アロバラの世界へ転移させられた件につきまして
証拠画像を添付してお送りいたします。
画像のように、今私は、アロマリアの皆と共にいます。
このままではアロバラのサ終と共に、私も消滅してしまうでしょう。
本当に申し訳ございませんが、サ終を思いとどまっていただくわけにはいきませんか?
会社での決定というのは重々承知です。
サーバーの問題や、運営資金の問題があることも存じております。
それでも今一度、考え直していただけますようよろしくお願いします。
風間ちぐさ
―――――――――――――――――――――――
私は両手を合わせ、目の前に雨村さんがいるように深く深くお辞儀した後、送信ボタンを押した。



