ゲームの創造神たる私は、サ終と共に滅する運命です【長編版】


 途端、ベルガモットの笑顔が固まる。
「それは……」
 続いて、しゅんとしょげた表情となった。
「自分はお役御免ということでしょうか」
(お役御免って、何の!?)
 私専用の料理人に、就任していたつもりだったのだろうか。
「違う違う。明日から私もカフェテリアでご飯を食べようと思って」
「カフェテリア、ですか」
「うん。美味しそうな料理がいっぱいあるのを見たら、部屋に引きこもっているのがもったいなくなっちゃって。あ、でもね」
 カフェテリアで私へ冷たい視線を送っていた二人、そして訓練場で殴り掛かって来たクベバを思い出す。
「……まだ外は少し怖いから、側にいて私を守ってくれる?」
「千枝……。はい、お任せください!」
 ベルガモットが嬉しそうに目を細めた。
「この身にかけて、千枝をお守りすると誓います」

 翌朝はベルガモット、そしてネロリとクラリセージが私の朝食に付き合ってくれた。
(久々の和食!)
 私は豆腐とわかめの味噌汁を、ゆっくりとすする。ほかっとした味わいは、自分の家にいるようなくつろぎを与えてくれた。
 朝食は和洋中で用意されていて、和はご飯と味噌汁と焼き魚、青菜のおひたしに温泉卵だ。洋はトーストにサラダとソーセージ、コンソメスープ、そして卵料理はオムレツか目玉焼きかスクランブルエッグが選択できる。中は鶏粥に点心三つ、そして蒸し鶏サラダと卵スープとなっていた。この世界に、和だの洋だの中だの存在しているのか、なんて突っ込んではいけない。これは日本産の乙女ゲーの世界なのだから。
 ベルガモットとネロリは洋、クラリセージは中をチョイスしたようだ。
 温泉卵のとろりとした半熟の黄身を口に運び、その濃厚でまろやかな味に私は感動する。
(私の作った世界の料理、おいしすぎない?)
 この世界は、ゲームに出ていなくても私がこっそり考えていた内容が、反映されていることもある。カフェテリアの料理のおいしさは、私の願望の表れかもしれない。シナリオを書いていた時に、よほどお腹が空いていたのだろうか。うん、心当たりしかない。
「幸せそうに食べてる創造主ちゃんの顔、最高」
 ネロリが私を楽しそうに見つめていた。
「ちょっと、食べてるところあまり見ないでよ」
「なんで? 可愛いお口開けてパックンしてる姿、めちゃくちゃキュートだと思うよ?」
「食べ物が口に入っていると、ほっぺが膨れて顔が丸くなるから恥ずかしいの」
「そこが可愛いんじゃん。あー、オレ、創造主ちゃんの食べている姿見ているだけで満たされる気がする」
 食べ物で腹を満たせ。
 私が食べづらそうにしていると、ベルガモットが気を利かせてくれた。
「やめろ、ネロリ。千枝は嫌がっている。また部屋から出て来なくなったらどうする」
「あ、それはヤダな。ごめんね、創造主ちゃん」
「ううん、いいけど……」
 私は何げなくクラリセージへ目をやる。彼は今まさにせいろの中から薄紅色の点心を口へ運ぼうとしている途中だった。
「ん? 何?」
 目が合ったクラリセージは箸を下ろす。
「あ、それ、何かなぁって思って。海老餃子?」
「うん、そうだよ」
 せいろの中は、薄紅色の海老餃子、緑色の翡翠餃子、そして黄色の星包みの三色が綺麗に並んで湯気を立てている。
「欲しいなら、あげるよ?」
 クラリセージは優しく微笑み、躊躇なくせいろを差し出してくる。
 いやいやいや、だめでしょう! 点心三つのうち一つを他人に与えちゃったら33%減ですよ? さてはクラリセージ、ピノどころか雪見だいふくですらシェアしちゃう性質だな? うん、彼ならやる。そういう存在として、私が生み出したのだから。
「ううん。クラリセージの食べる量が足りなくなっちゃうから、食べて」
「僕なら構わないよ?」
「明日、自分でオーダーするから大丈夫。美味しそうなの教えてくれてありがとう」
 クラリセージは「そう?」と言いながら、せいろを自分の元へと戻した。この辺の引き際も絶妙だ。
「千枝」
 ベルガモットが自分の皿のオムレツを一口大に切り、そっと差し出してくる。
「絶品ですよ」
「わ、美味しそう!」
 思わず箸をつけそうになる。けれど先程クラリセージの好意を断ったのを思い出し、手を止めた。
「ううん、卵料理は私のところにもあるから。ありがとうね。次に自分でオーダーする」
「え、なになに? これって創造主ちゃんに自分のご飯食べさせる流れ?」
 目をきらめかせたネロリが、自分の皿からミニトマトを指先でつまみ上げ、差し出してくる。
「はい、あ~ん」
「そうじゃないって! 自分のものは自分で食べて」
「ちぇ~、残念。創造主ちゃんに半分食べてもらってから、オレが残りの半分食べるつもりだったのに」
 何をしようとしてんだ、ネロリ。ほら、ベルガモットも、「何かいけそうなものはないか」って顔で、自分の皿見ないで!
 隙を作るまいと、私は青菜のおひたしを口に運ぶ。久々のだし醤油味に、うっとりしていた時だった。
「創造主」
 トレイを持って現れたのは、抜けるような白い肌と銀髪が印象的なカモミールだった。はちみつ色の瞳が、私を不思議そうに見ている。彼は特に断りを入れることなく、私の斜め向かいにトレイを下ろし席に着いた。そしてもくもくと鶏粥を口へと運びはじめる。中を選択したらしい。独特のペースを持った不思議ちゃんっぷりは、ゲームの中と同じだった。
(可愛いなぁ)
 見た目だけで言えば当然イケメンなのだが、ふわっとしたとりとめのない無垢な雰囲気が、年齢より幼さを感じさせる。カモミールは無心に鶏かゆを食べていたが、ふとその手が止まった。
「あ、そうだ。創造主」
「え? 何?」
 その瞬間、私の口の中に海老餃子が差し込まれた。カモミールが自分のせいろから取り出したものだ。
「!?」