一歩も進めなくなった私を、チュベローズが振り返る。出口から差し込む光で、彼の銀髪が神々しく輝いていた。
「さっき、図書館に行くって言ってたよね?」
「あぁ、言ったな」
「……誰か、いたりするのかな」
「まぁ、いるだろうな。ここは俺たちの居住地だ。サンダルウッドかパチュリ辺りが、図書館にはよく出入りしている」
(サンダルウッドかパチュリ……)
二人とも物腰は柔らかいけれど、言うべきことははっきりと口にするタイプだ。優しいタイプだからこそ、そんな彼らを怒らせているかもしれないと思うとぞっと身が冷える。
「どうした、さっさと歩け。時間がないと言っただろう」
「……怖い」
「は?」
「怒ってる皆に顔を合わせるのは、怖いよ」
チュベローズが私を見ている。俯いた私の目に入るのは自分の足元だけだったけれど、彼から放たれる視線ははっきりと感じ取れた。
「……部屋に、戻っていい?」
「駄目だ、」
言ったかと思うと、チュベローズは私の手首をガッキリと掴む。そして、光に向かってすたすたと歩き出した。
「あ、ちょ!」
「俺様が隣にいて、お前に何か起こるわけないだろう。堂々としていろ」
「でも」
「顔を上げて、この世界の現実をしっかり見ろ」
抵抗も虚しく、私は広場へと連れ出された。
暗い建物から屋外へと足を踏み出すと、まばゆい光が目を射る。チュベローズに掴まれたのと反対側の手を、明るさに目が慣れるまでかざした。
(こんな風になってたんだ……)
ゲームの背景画像としては、何度も見た広場の光景。南側に大きな門があり、敷地と外界を隔てている。足元は長方形の石材の敷き詰められた、石畳となっていた。
(へぇ……)
歩きながら、靴越しに石畳の固さを感じ取る。
(結構ごつごつしてたんだ)
広場の中央には噴水があり、涼やかな水音を立てていた。目に見えない細かな飛沫が、ミストのように私の肌を冷やす。それが私の心を少し落ち着かせてくれた。
「図書館だ」
チュベローズの声に、前方へ目を向ける。クリーム色の建物がそびえていた。
図書館へ足を踏み入れると、窓辺の低い書棚に腰かけている人物が目に入った。赤い表紙の本を開いて手にしており、どうやら読書中のようだ。
「おや、珍しいね。チュベローズ、君がここへ来るなんて」
穏やかに微笑んでいるのはパチュリだ。ワインレッドの短めの髪はきちっと切りそろえられ、彼の几帳面さが伝わってくる。眼鏡の奥の瞳は淡い草色をしていた。
「こいつにしっかりと見せたくてな。俺様たちのこの世界を」
そう言ってチュベローズは、親指で私示した。
「いいね」
パチュリは静かに微笑む。手の中の本を、ぱたんと閉じた。淡い草色の瞳が、私を柔らかに見つめる。
「私も貴女には、自分の生み出した世界をちゃんと見てもらいたいと思っていたんだ。だから、貴女を召喚することに賛成したんだ」
「へぇ、そうなんで……」
今、なんて?
「……私を召喚することに賛成した、って言いました?」
「うん、言ったよ」
パチュリは楽しそうに目を細め、ふふっと笑った。
「この世界を作り上げた創造主が、どんな人物なのか見てみたかったんだ」
え、怖い。こんなに優しそうに笑っているのに、「一緒に滅べ!」って願った側だったんだ。へぇ……。
「それに関しては、俺様も一票投じた側だ」
チュベローズが、ふんと鼻を鳴らす。
「……私を召喚することに賛成した、ってこと?」
「当然だ」
チュベローズは胸を張ってふんぞり返っている。まぁ、彼に関しては意外性を感じないけれど。
「さぁ、よく見ろ、愚物」
チュベローズは私の背を軽く押した。
「この図書館も、なかなかのものだろう」
「……うん」
正直なところ目の前の二人が私の召喚に賛成派だったことに胸がキリキリして、心から感動は出来ない。それでも見回せばここの蔵書の豊かさと、清潔感溢れる施設、そして落ち着いた雰囲気かなり心地よいと感じた。こんな状況でなければ、一ヶ月位食料持ち込んで住み着きたいくらいである。
(そうだ……)
初めてゲーム内で図書館の背景画像を見た時に感じたことを思い出す。私はただ文章で「図書館」としか書いていなかった。でも、出来上がってきた絵は「こんな素敵な図書館なら、実際に行ってみたい」と思う光景が広がっていた。
そっとテーブルに触れる。そして書棚に足を運び、一冊取り出した。
「……読めない」
それは、私の知るどこの世界のものともつかない文字だった。スチルに描かれた文字と似たような。
それでも本特有のインクと紙の香りは、私の好きなものだった。
「……これも、なくなっちゃうんだね」
横合いから伸びてきた手が、私の持っていた本をさっと奪い取った。
「あっ」
チュベローズは私の手から取り上げた本を、書棚へと戻す。
「行くぞ、時間が惜しい」
チュベローズの大きな手が私の手首をまたもや掴む。ふと彼の手に目を落せば、陶器のようにすべやかで発光しているほど透明感のある肌に、思わす息が漏れた。
次に連れていかれたのは、訓練所だった。
コロッセオのような円形の作りになっていて、中央ではアロマリア同士の練習試合が出来るステージがある。そして壁際にはぐるりと取り囲むように、訓練用の案山子が立っていた。
「さっき、図書館に行くって言ってたよね?」
「あぁ、言ったな」
「……誰か、いたりするのかな」
「まぁ、いるだろうな。ここは俺たちの居住地だ。サンダルウッドかパチュリ辺りが、図書館にはよく出入りしている」
(サンダルウッドかパチュリ……)
二人とも物腰は柔らかいけれど、言うべきことははっきりと口にするタイプだ。優しいタイプだからこそ、そんな彼らを怒らせているかもしれないと思うとぞっと身が冷える。
「どうした、さっさと歩け。時間がないと言っただろう」
「……怖い」
「は?」
「怒ってる皆に顔を合わせるのは、怖いよ」
チュベローズが私を見ている。俯いた私の目に入るのは自分の足元だけだったけれど、彼から放たれる視線ははっきりと感じ取れた。
「……部屋に、戻っていい?」
「駄目だ、」
言ったかと思うと、チュベローズは私の手首をガッキリと掴む。そして、光に向かってすたすたと歩き出した。
「あ、ちょ!」
「俺様が隣にいて、お前に何か起こるわけないだろう。堂々としていろ」
「でも」
「顔を上げて、この世界の現実をしっかり見ろ」
抵抗も虚しく、私は広場へと連れ出された。
暗い建物から屋外へと足を踏み出すと、まばゆい光が目を射る。チュベローズに掴まれたのと反対側の手を、明るさに目が慣れるまでかざした。
(こんな風になってたんだ……)
ゲームの背景画像としては、何度も見た広場の光景。南側に大きな門があり、敷地と外界を隔てている。足元は長方形の石材の敷き詰められた、石畳となっていた。
(へぇ……)
歩きながら、靴越しに石畳の固さを感じ取る。
(結構ごつごつしてたんだ)
広場の中央には噴水があり、涼やかな水音を立てていた。目に見えない細かな飛沫が、ミストのように私の肌を冷やす。それが私の心を少し落ち着かせてくれた。
「図書館だ」
チュベローズの声に、前方へ目を向ける。クリーム色の建物がそびえていた。
図書館へ足を踏み入れると、窓辺の低い書棚に腰かけている人物が目に入った。赤い表紙の本を開いて手にしており、どうやら読書中のようだ。
「おや、珍しいね。チュベローズ、君がここへ来るなんて」
穏やかに微笑んでいるのはパチュリだ。ワインレッドの短めの髪はきちっと切りそろえられ、彼の几帳面さが伝わってくる。眼鏡の奥の瞳は淡い草色をしていた。
「こいつにしっかりと見せたくてな。俺様たちのこの世界を」
そう言ってチュベローズは、親指で私示した。
「いいね」
パチュリは静かに微笑む。手の中の本を、ぱたんと閉じた。淡い草色の瞳が、私を柔らかに見つめる。
「私も貴女には、自分の生み出した世界をちゃんと見てもらいたいと思っていたんだ。だから、貴女を召喚することに賛成したんだ」
「へぇ、そうなんで……」
今、なんて?
「……私を召喚することに賛成した、って言いました?」
「うん、言ったよ」
パチュリは楽しそうに目を細め、ふふっと笑った。
「この世界を作り上げた創造主が、どんな人物なのか見てみたかったんだ」
え、怖い。こんなに優しそうに笑っているのに、「一緒に滅べ!」って願った側だったんだ。へぇ……。
「それに関しては、俺様も一票投じた側だ」
チュベローズが、ふんと鼻を鳴らす。
「……私を召喚することに賛成した、ってこと?」
「当然だ」
チュベローズは胸を張ってふんぞり返っている。まぁ、彼に関しては意外性を感じないけれど。
「さぁ、よく見ろ、愚物」
チュベローズは私の背を軽く押した。
「この図書館も、なかなかのものだろう」
「……うん」
正直なところ目の前の二人が私の召喚に賛成派だったことに胸がキリキリして、心から感動は出来ない。それでも見回せばここの蔵書の豊かさと、清潔感溢れる施設、そして落ち着いた雰囲気かなり心地よいと感じた。こんな状況でなければ、一ヶ月位食料持ち込んで住み着きたいくらいである。
(そうだ……)
初めてゲーム内で図書館の背景画像を見た時に感じたことを思い出す。私はただ文章で「図書館」としか書いていなかった。でも、出来上がってきた絵は「こんな素敵な図書館なら、実際に行ってみたい」と思う光景が広がっていた。
そっとテーブルに触れる。そして書棚に足を運び、一冊取り出した。
「……読めない」
それは、私の知るどこの世界のものともつかない文字だった。スチルに描かれた文字と似たような。
それでも本特有のインクと紙の香りは、私の好きなものだった。
「……これも、なくなっちゃうんだね」
横合いから伸びてきた手が、私の持っていた本をさっと奪い取った。
「あっ」
チュベローズは私の手から取り上げた本を、書棚へと戻す。
「行くぞ、時間が惜しい」
チュベローズの大きな手が私の手首をまたもや掴む。ふと彼の手に目を落せば、陶器のようにすべやかで発光しているほど透明感のある肌に、思わす息が漏れた。
次に連れていかれたのは、訓練所だった。
コロッセオのような円形の作りになっていて、中央ではアロマリア同士の練習試合が出来るステージがある。そして壁際にはぐるりと取り囲むように、訓練用の案山子が立っていた。



