ゲームの創造神たる私は、サ終と共に滅する運命です【長編版】

「喚くな」
 強引に私を外へ連れ出そうとするチュベローズに、ベルガモットも声を荒げる。
「やめないか、チュベローズ!」
「……」
 しかしチュベローズは何も答えず、ただベルガモットへ鋭い眼差しを向ける。ベルガモットはその視線を正面から受け止めたと思うと、途端制止することをやめた。
(えっ?)
 ベルガモットは愁いを帯びた眼差しで、連れ出されていく私をただ見ている。拳をぎゅっと固めて。
(ちょちょちょ、ちょおぉい、ベルガモット? 助けてくれるんじゃないの!?)
 それどころか、私を気遣って駆け付けようとしてくれたネロリとクラリセージを、そっと手で制してまでいる。
(なんで!?)
 せっかくメンバー随一の戦闘力を持つって設定しておいたのに! 何があっても助けてくれるって話じゃなかったっけ!? てか、味方を止める必要なくない!?
 もの言いたげな表情のベルガモットに見送られ、私はチュベローズによって部屋からずるずると引きずり出されて行った。
(いやぁああああ!)

 チュベローズにまず連れて来られたのは、敷地の西の端に建つカフェテリアだった。
「何を食う」
「へ?」
「ここは、俺様たちアロマリアが無料で飯を食える場所。それはお前も知っているだろう。遠慮の必要はない、頼め」
「えっと……」
 私は、そっと辺りを見回す。
(いる)
 いるのだ。アロマリアのメンバーが。しかも……
(うっ……)
 病的なまでに白い肌と漆黒のウェーブヘアのイケオジ、ジュニパーベリーがこちらを射抜くような視線を向けていた。私がここへ来た初日、思い切りベッドを殴りつけた彼だ。そしてその向かいには褐色肌が印象的なベンゾインが座っている。ハニーブロンドの前髪の間からのぞく血のような色合いの瞳には、明らかな敵意がにじんでいた。
(睨んでるよ、思いっきり……)
 思わず身を縮める。ここはゲームの食べ物グラフィックも素晴らしく、リリース当時はとんだ飯テロ作品だ、とも言われたアロバラ世界である。食べてみたいメニューは山ほどあったが、あの視線に晒されながらでは何も喉を通りそうになかった。
「……水だけでいい」
「よぅし、わかった」
 そう言ったかと思うと、チュベローズは厨房に向かって声を張り上げた。
「このカフェテリアの人気メニュー上位十品をご所望だそうだ」
「ちょおぉおおい!! 何言ってんの!?」
 勢いですごい声が出てしまった。厨房の人も「かしこまりました~」じゃないのよ。
 チュベローズと言えば、そんな私を見てニヤニヤと笑っている。
「なら、何を注文する? お前が決められないのなら、この俺様が直々に決めてやる」
(ぐぅ……)
 食べたいものが思いつかないが、同じ答えを返せば、また無茶な注文をするだろう。それに考えてみれば、店に入って水だけというのもマナーとしてどうかと思う。
「……紅茶」
「わかった。今日のおすすめの紅茶を一つ。あと、それに合うスイーツを持ってこい」
(ま、また勝手に増やした!)
 ほどなく、深みのある赤が特徴的な紅茶が運ばれて来た。こちらを睨んでいるベンゾインの瞳の色にも似て、少し狼狽える。横には可愛いシェル型のマドレーヌが添えてあった。
(マドレーヌかぁ。今は焼き菓子のバターがちょっと重いかな……)
 そんなことを思いながらも、私はおずおずと紅茶をすすり、マドレーヌを手に取り一口齧った。
「!?」
 口に入れた瞬間、バターの芳香が鼻腔を柔らかに抜ける。しつこくないやわらかな甘み、ほどよい塩気、卵の優しい風味。いつまでも舌の上で味わっていたいのに、体がマドレーヌを取り込みたいのか、勝手に喉の奥に吸へと送り込んでしまう。もう一口齧る。微かにサクリと歯に触れる焼きめ。ふわっともちっとした生地から立ち上るバターの香り……。
(お、美味しい……)
 マドレーヌを食べ、落ち着いた味わいの紅茶で口の中をリセットし、再びマドレーヌに齧りつく。私はあっという間にマドレーヌを食べきってしまった。
「どうだ?」
 頬杖をついたチュベローズが、皮肉めいた微笑を浮かべて私を見ている。
「……美味しかった」
「だろうな」
 チュベローズは肩にかかった銀の髪を、さらっと背へ払いのける。
「お前の作った世界のものだからな」
(え?)
 その瞬間、私のお腹が「ぐぅ~っ」と間抜けな音を立てた。私は慌てて、両手でお腹を押さえる。しかしそれを嘲笑うように、お腹は何度も繰り返し音を立てた。
(昨夜から何も食べていなかったところに、いきなりこんなおいしいもの食べたから!)
 恥ずかしさと共に急激に空腹感が押し寄せてくる。お腹空いた。何か食べたい。
(さっきは水だけでいいって言ったけど、今から何か注文してもいいかな? いいよね?)
 私は厨房の前に貼ってあるボードへ目をやる。
(えっと、今日のメニューはバゲットサンド……エビとアボカドだ! それとアサリときのこのスープパスタに、デミグラスオムライス。ビーフシチューハンバーグに、スペシャルメニューは……、仔牛のヴァンルージュ!!)
 ちなみに仔牛のヴァンルージュとは、仔牛のソテーに赤ワインのソースをかけたものであるらしい。なお、私は生まれてこの方一度も食べたことがない。アロバラを作るにあたって、一生懸命高級レストランの料理を検索して探し、書き加えたメニューだ。食べたことがないので、フレーバーテキスト――この料理に関する説明文は、レストランの口コミを参考に想像して書いた。
(それが、今、目の前に! 実際に食べられる! しかも無料で! 高級レストランの料理がタダで!!)
「あ、あのっ、仔牛のヴァン……」
 厨房のスタッフに向けて手を上げ、欲望全開で注文をしようとした時だった。
「行くぞ、愚物」
「へ?」