(だめだ、完全にボッキリ逝った……)
心が、である。
そもそも創作に関わる人間の心は、さまざまな事象を細やかにキャッチするため、かなり敏感に出来ている。であれば、悪意に関しても一般の人よりダメージを食らいやすいのは自明の理。
シナリオを担当したゲームのサービス終了、生み出したキャラクターたちによる多数決でのゲーム世界召喚、百日後に滅ぶ世界、ここまではギリッギリ耐えられた。
けれど、チュベローズから「この崩壊は、やろうと思えばできていた努力を怠っていたための結果」とはっきりと言葉で告げられ、ついには蜘蛛の糸のような細い希望の糸も担当さんからぷっつりと切られてしまった。
(無理、もう無理)
物語を考えるため想像力を働かせようと頑張っても、「力不足を責められた」「命がけの提案を蹴られた」「死」「ご愛顧ありがとうございました」の言葉が頭の中をぐるぐると満たして、他に何も考えられなくなる。
私はベッドの上で頭まで布団をかぶったまま、何十回目となる重いため息をついた。
「あの、千枝」
布団越しに、ベルガモットの気遣わし気な声が聞こえて来た。
「朝食を召し上がらなかったようですね。クラリセージが、スープやリゾットのようなものの方が良いのではないかと言っていますが、 昼食はそのようにいたしましょうか?」
(朝食……)
そう言えばだいぶ前に、そんな声を掛けられた気もする。
(今、何時だろう)
理想のヒーローが手ずから作ってくれた朝食、それすら口に運ぶ気になれなかったのだから重症だ。今が昼時だとすれば……。
(何時間も、なにも作り出せない無為な時間を過ごしてしまった)
期限が限られているのに、一切の進展もなかった事実が、またも私の心を重くする。
(本当にねぇ、私って何のためにここにいるんでしょうね? 存在しても意味がないのにね? 消える? そっか、消えちゃった方がいいよね、私なんか。三ヶ月も猶予いらないわ、あはは)
完全にダークサイドに堕ちている。自覚はあるが、どうにも感情のコントロールが出来ない。
(もうやだ、知らん。どうせ何やっても滅ぶんだ。じゃあ、あがいても無駄じゃん。あー、馬鹿馬鹿しい)
布団の中でうだうだグダグダと、落ち込み続ける。そうこうしているうちにまた貴重な時間が無駄に過ぎて行った。
そんな時、布団の外から何やらざわめきが聞こえて来た。
「ちょ、何の用だよ! また創造主ちゃんを責め立てに来たわけ?」
「悪いけど帰ってくれる? 今は創造主さんに君を合わせたくないんだ!」
「うるさい、邪魔だ。そこをどけ」
(うげ)
聞こえてきたのは、チュベローズの声だ。
部屋に無理やり押し入って来たらしい様子が伝わってくる。彼を押しとどめてくれているのは、ネロリとクラリセージか。
「チュベローズ。お前の言葉に傷つき、千枝は寝込んでしまった。悪いが出て行ってくれ。お前は悪影響だ」
「ハッ、またそうやってあの愚物を甘やかしているのか。それで事態が好転するならいいがな。ベルガモット、お前は未熟な指揮官を導く立場でありながら、その任を怠っているように見えるぞ」
「千枝は指揮官ではない。創造主だ」
「俺たち以外の存在、という意味では同じだ」
(ひぇ)
ベルガモットがチュベローズを止めてくれている。けれど、じわじわとこちらへチュベローズが迫っているのが、声の大きさから感じ取れた。私は布団の端をぎゅっと握りしめ、身を固くする。
「どけ、ベルガモット。俺様はそこの愚物に用があって来た」
「吾らが創造主に無体を働くような者を、近づけさせるわけにはいかん。お引き取り願おう」
「お前らでは埒が明かんから、この俺様がわざわざここまで足を運んでやったんだ」
「チュベローズ、どうしてもここを押し通るというのであれば、俺も本気を出さざるを得ない。……引いてくれ」
え、こわ。なんか殺気とか闘気って言葉で表現される気配が、布団越しにビンビン伝わってくるんだけど。ここでベルガモットVSチュベローズの仲間割れイベント発生しちゃってる? 私そんなシチュエーション書いたことないよ? 作者差し置いて、何してくれちゃってんの?
「いい機会だ。ベルガモット、お前とは一度本気でやり合ってみたかった」
「……チュベローズ、容赦はせん」
(ちょ……! 何二人とも微妙に嬉しそうな声出してんの?)
私は思わず布団を蹴飛ばして、ベッドから飛び降りた。
「待って待って、二人とも!」
全身からオーラっぽい何かを立ち上らせた二人の元へ駆けつけつつ、私はスマホを探す。そして、この世界に持ち込めなかったことを思い出し、咄嗟にテーブルの上のメモ用紙とペンを掴んだ。
「やるなら、ちゃんと私の目の前でやって! 動きとかしっかり記録して、今後の執筆に生かすから!」
私の言葉に、二人の体から立ち上るカラフルな陽炎のようなものがかき消えた。
「千枝、大丈……」
「ふざけた奴だ。やっと起きたか」
チュベローズはベルガモットの隙をついて脇をすり抜け、こちらへ迫る。そして無遠慮に私の腕を掴んだ。
「ひゅっ!」
「愚物。俺様に付き合え。現実を見せてやる」
(げ、現実!?)
現実という言葉に、背筋が凍った。
滅びの確定した世界。そのことへ怒りと悲しみと絶望を漲らせる住人たち。
(そして私はその、諸悪の根源と見なされている存在!)
「いやぁああ!」
心が、である。
そもそも創作に関わる人間の心は、さまざまな事象を細やかにキャッチするため、かなり敏感に出来ている。であれば、悪意に関しても一般の人よりダメージを食らいやすいのは自明の理。
シナリオを担当したゲームのサービス終了、生み出したキャラクターたちによる多数決でのゲーム世界召喚、百日後に滅ぶ世界、ここまではギリッギリ耐えられた。
けれど、チュベローズから「この崩壊は、やろうと思えばできていた努力を怠っていたための結果」とはっきりと言葉で告げられ、ついには蜘蛛の糸のような細い希望の糸も担当さんからぷっつりと切られてしまった。
(無理、もう無理)
物語を考えるため想像力を働かせようと頑張っても、「力不足を責められた」「命がけの提案を蹴られた」「死」「ご愛顧ありがとうございました」の言葉が頭の中をぐるぐると満たして、他に何も考えられなくなる。
私はベッドの上で頭まで布団をかぶったまま、何十回目となる重いため息をついた。
「あの、千枝」
布団越しに、ベルガモットの気遣わし気な声が聞こえて来た。
「朝食を召し上がらなかったようですね。クラリセージが、スープやリゾットのようなものの方が良いのではないかと言っていますが、 昼食はそのようにいたしましょうか?」
(朝食……)
そう言えばだいぶ前に、そんな声を掛けられた気もする。
(今、何時だろう)
理想のヒーローが手ずから作ってくれた朝食、それすら口に運ぶ気になれなかったのだから重症だ。今が昼時だとすれば……。
(何時間も、なにも作り出せない無為な時間を過ごしてしまった)
期限が限られているのに、一切の進展もなかった事実が、またも私の心を重くする。
(本当にねぇ、私って何のためにここにいるんでしょうね? 存在しても意味がないのにね? 消える? そっか、消えちゃった方がいいよね、私なんか。三ヶ月も猶予いらないわ、あはは)
完全にダークサイドに堕ちている。自覚はあるが、どうにも感情のコントロールが出来ない。
(もうやだ、知らん。どうせ何やっても滅ぶんだ。じゃあ、あがいても無駄じゃん。あー、馬鹿馬鹿しい)
布団の中でうだうだグダグダと、落ち込み続ける。そうこうしているうちにまた貴重な時間が無駄に過ぎて行った。
そんな時、布団の外から何やらざわめきが聞こえて来た。
「ちょ、何の用だよ! また創造主ちゃんを責め立てに来たわけ?」
「悪いけど帰ってくれる? 今は創造主さんに君を合わせたくないんだ!」
「うるさい、邪魔だ。そこをどけ」
(うげ)
聞こえてきたのは、チュベローズの声だ。
部屋に無理やり押し入って来たらしい様子が伝わってくる。彼を押しとどめてくれているのは、ネロリとクラリセージか。
「チュベローズ。お前の言葉に傷つき、千枝は寝込んでしまった。悪いが出て行ってくれ。お前は悪影響だ」
「ハッ、またそうやってあの愚物を甘やかしているのか。それで事態が好転するならいいがな。ベルガモット、お前は未熟な指揮官を導く立場でありながら、その任を怠っているように見えるぞ」
「千枝は指揮官ではない。創造主だ」
「俺たち以外の存在、という意味では同じだ」
(ひぇ)
ベルガモットがチュベローズを止めてくれている。けれど、じわじわとこちらへチュベローズが迫っているのが、声の大きさから感じ取れた。私は布団の端をぎゅっと握りしめ、身を固くする。
「どけ、ベルガモット。俺様はそこの愚物に用があって来た」
「吾らが創造主に無体を働くような者を、近づけさせるわけにはいかん。お引き取り願おう」
「お前らでは埒が明かんから、この俺様がわざわざここまで足を運んでやったんだ」
「チュベローズ、どうしてもここを押し通るというのであれば、俺も本気を出さざるを得ない。……引いてくれ」
え、こわ。なんか殺気とか闘気って言葉で表現される気配が、布団越しにビンビン伝わってくるんだけど。ここでベルガモットVSチュベローズの仲間割れイベント発生しちゃってる? 私そんなシチュエーション書いたことないよ? 作者差し置いて、何してくれちゃってんの?
「いい機会だ。ベルガモット、お前とは一度本気でやり合ってみたかった」
「……チュベローズ、容赦はせん」
(ちょ……! 何二人とも微妙に嬉しそうな声出してんの?)
私は思わず布団を蹴飛ばして、ベッドから飛び降りた。
「待って待って、二人とも!」
全身からオーラっぽい何かを立ち上らせた二人の元へ駆けつけつつ、私はスマホを探す。そして、この世界に持ち込めなかったことを思い出し、咄嗟にテーブルの上のメモ用紙とペンを掴んだ。
「やるなら、ちゃんと私の目の前でやって! 動きとかしっかり記録して、今後の執筆に生かすから!」
私の言葉に、二人の体から立ち上るカラフルな陽炎のようなものがかき消えた。
「千枝、大丈……」
「ふざけた奴だ。やっと起きたか」
チュベローズはベルガモットの隙をついて脇をすり抜け、こちらへ迫る。そして無遠慮に私の腕を掴んだ。
「ひゅっ!」
「愚物。俺様に付き合え。現実を見せてやる」
(げ、現実!?)
現実という言葉に、背筋が凍った。
滅びの確定した世界。そのことへ怒りと悲しみと絶望を漲らせる住人たち。
(そして私はその、諸悪の根源と見なされている存在!)
「いやぁああ!」



