クラリセージが不思議なものを見る顔つきで、ノートPCの画面に見入っていた。
「あぁ、それはね。ユーザーさんが石やその他アイテムを手に入れるために、毎日やらなきゃいけないとなっている内容を、少し整理した方がいいんじゃないかってこと」
「毎日やらなきゃいけないこと、ですか?」
「うん。本来こういうミッションは、『頑張ってクリアしてくれた人には、ご褒美としてレア報酬をプレゼントするよ』って意味で存在してるんだけど、プレイヤー側としては『報酬が欲しければ、この苦行に堪えな』ってノルマみたいに感じちゃうんだよね」
私自身、複数のソーシャルゲームで遊んでいる身だから実感している。特に予定があって忙しい日は、これをクリアするのが困難だ。 それでアイテムが手に入らないと、なぜか損した気分になってしまう。
「アロバラの場合、他のソシャゲよりもそれが多いんだよね。『討伐に出る』『負傷者の手当て』『ガチャを回す』『敵を〇体倒せ』、その他もろもろでニ十項目くらいあるんだよ。それら全部をやったうえで、ようやく『すべてのミッションをクリア』という項目に到達したことになる。でもその報酬が石一個なんだから、労力に対してちょ~っと割に合わないよね」
ご褒美というよりは、強制的にやらされている感の強いデイリーミッションに、製作者サイドの私ですら飽きてしまい、「どうせ頑張っても報酬が石一個なら、それよりは自分の時間を大事にしたいな」と放置していたくらいだ。
「だからデイリーミッションは三~五個くらいに絞って、その全ての報酬に多めの石をプラスしてもらえないかな、っていう打診。これくらいなら片手間にやってもいいか、っていうくらいライトなものにしてもらうんだ。出来るだユーザーさんが負担に感じないように」
「そうなんだ」
ふむふむと頷きつつも、どこか引っかかりがあると言った風情のクラリセージに、私もはて?と首をかしげる。今の説明で、分かりにくかっただろうか。その様子に、ネロリが気付いてくれた。
「あー、創造主ちゃん。さっきから石が報酬だって言ってるけど、石が報酬って何? 頑張った結果にもらえるのが、石ころ一個ってどゆこと?」
そこかぁ。そうだよね、ソーシャルゲームしたことない人にはなじみのない言葉だよね。
「石って言うのはアロマストーンのことで、アロバラの場合は五十個あれば一回ガチャが出来るんだ。他にもアイテムと交換出来たり。ユーザーがゲームを楽しむために使う通貨みたいなものかな」
「なるほど、通貨ですか」
ベルガモットが顎に手を当て頷く。
「ようやく理解いたしました。ユーザーはその通貨を使い、衣装を抽選で当てている、ということですね。五十個必要ということは、一つだけでは抽選補助券みたいなものと考えていいのでしょうか。そして石が多ければそのチャンスも増えると」
「そう、そんな感じ!」
解説ありがとう、ベルガモット。
あれ? もしかして私、「ガチャ」の意味もあやふやなまま話を進めていた? ソーシャルゲームのシステム知ってること前提で話しててごめん!
「そう言うことだから、最後に限定衣装を多くの人に手に入れてもらうためにも、石をサービスしてほしいって、運営さんにお願いしてるの」
サービス終了が決まった作品は、石の販売がストップとなる。有償の石に至っては払い戻しのターンにきている以上、マネーパワーで何とかしたいと思っても出来ない層が出てくるのだ。そこを補填する意味でも、買わなくても石が手に入る大盤振る舞い状態にしてあげたい。
「最後の『ログボ演出のスキップ機能とは』どういうことでしょうか?」
そうだよね、ベルガモット。システム面に関しては、いまいち伝わりにくいこと多いよね。
「ログボって言うのは、ログインボーナスのことでね。アロバラの世界にアクセスしてくれた人に、お礼として贈るプレゼントって感じかな。今日も来てくれてありがとう、って」
「なるほど。では、演出とは?」
「ユーザーがアクセスすると、アロマリアの皆がランダムに登場して『ありがとう!』ってプレイヤーに贈り物をするんだ。ポーズとセリフ付きで」
「ポーズとセリフ……」
顎に手をやり思案顔で記憶を探っていた様子のベルガモットが、はたと顔を上げる。
「これのことですか?」
「ん?」
「『ようこそお待ちしておりました、指揮官殿。本日もあなたが健やかな一日を過ごせますよう、ささやかながらこちらを。どうぞお受け取り下さい』」
(んッ、ふッ!!)
不意打ちのキメポーズと何度も聞いたセリフ、それを目の前で理想の権化から再現され、一瞬で脳みそが沸騰する。
(刺激が強い!)
「そ、それ。それぇ……」
口を押さえた指の間から、呻くような声を漏らしつつ、私はふらふらと後ずさりする。すると背中にトンと温かなものが当たった。振り返ればネロリである。
「あ、ネロリ。ごめ……」
ネロリは私と目が合うと、悪戯っぽくウィンクをする。そして私の両肩に手を掛けてくるりと反転させ自分の方を向かせると、ポーズを決めた。
「『やっ、指揮官ちゃん。今日も会えて、オレめっちゃ嬉しい。だーかーらぁ、オレからプレゼントあげちゃうね♪ さ、受け取って♡』」
ちょっ……!
「これで合ってる?」
「あ、合ってるよ! 合ってるけど、わざわざ実演しなくていいから!」
「え? そなの? だってさ、クラリセージ」
ネロリの視線の先では、クラリセージが困惑した表情を浮かべていた。ログインボーナス時のポーズを自分もやらねばならないのかと、軽く練習するような手つきで。
「あ、やらなくていいんですね。あ、はは……」
クラリセージが恥ずかしそうに両手を下ろし、背後に回す。あっ、なんか一人だけ拒否ったような感じになった? 違うよクラリセージ、違うんだ。そのセリフは私が考えたものだから、目の前で演出ポーズをやられると、とんでもなく気恥ずかしいんだ。決して君のが見たくないわけじゃないんだ! むしろ見たかったよぅ。
「それで、これの何が問題だったのでしょう。スキップが必要ということは、……ユーザーの皆様は我々のこの姿を見たくないということでしょうか」
「見たくないわけじゃないと思う。好きなアロマリアの場合は特に。だけど台詞が長いんだよね……。私が自分で書いておいてなんだけど」
そう、実際にプレイして思った。リリースして間もない頃は、この演出にキャッキャしていた。美麗グラフィックとイケボでお出迎え、そしてアイテムまでくれるなんて嬉しいな、と。だけどアロバラも開始から一年以上経っている。三百六十五回以上も同じ演出が繰り返されれば、さすがに飽きてしまうのだ。
なのにセリフの音声が終わるまで、いくらスマホをタップしても次の画面に移ることが出来ない。その後、キラキラリン☆ペッカーン☆という音と共に配布アイテムの表示。更に、『明日はこれをプレゼントするから、必ず来てね』というセリフまで続くのだ。
「タップが三回必要で、しかも一定時間操作できない。これはタイパ的によろしくないんだよね」
「タイパとは?」
「タイムパフォーマンス。人は使える時間が限られてる。だから、少しでも空白の時間を作りたくないって気持ちがあるんだよ」
「あぁ、それはね。ユーザーさんが石やその他アイテムを手に入れるために、毎日やらなきゃいけないとなっている内容を、少し整理した方がいいんじゃないかってこと」
「毎日やらなきゃいけないこと、ですか?」
「うん。本来こういうミッションは、『頑張ってクリアしてくれた人には、ご褒美としてレア報酬をプレゼントするよ』って意味で存在してるんだけど、プレイヤー側としては『報酬が欲しければ、この苦行に堪えな』ってノルマみたいに感じちゃうんだよね」
私自身、複数のソーシャルゲームで遊んでいる身だから実感している。特に予定があって忙しい日は、これをクリアするのが困難だ。 それでアイテムが手に入らないと、なぜか損した気分になってしまう。
「アロバラの場合、他のソシャゲよりもそれが多いんだよね。『討伐に出る』『負傷者の手当て』『ガチャを回す』『敵を〇体倒せ』、その他もろもろでニ十項目くらいあるんだよ。それら全部をやったうえで、ようやく『すべてのミッションをクリア』という項目に到達したことになる。でもその報酬が石一個なんだから、労力に対してちょ~っと割に合わないよね」
ご褒美というよりは、強制的にやらされている感の強いデイリーミッションに、製作者サイドの私ですら飽きてしまい、「どうせ頑張っても報酬が石一個なら、それよりは自分の時間を大事にしたいな」と放置していたくらいだ。
「だからデイリーミッションは三~五個くらいに絞って、その全ての報酬に多めの石をプラスしてもらえないかな、っていう打診。これくらいなら片手間にやってもいいか、っていうくらいライトなものにしてもらうんだ。出来るだユーザーさんが負担に感じないように」
「そうなんだ」
ふむふむと頷きつつも、どこか引っかかりがあると言った風情のクラリセージに、私もはて?と首をかしげる。今の説明で、分かりにくかっただろうか。その様子に、ネロリが気付いてくれた。
「あー、創造主ちゃん。さっきから石が報酬だって言ってるけど、石が報酬って何? 頑張った結果にもらえるのが、石ころ一個ってどゆこと?」
そこかぁ。そうだよね、ソーシャルゲームしたことない人にはなじみのない言葉だよね。
「石って言うのはアロマストーンのことで、アロバラの場合は五十個あれば一回ガチャが出来るんだ。他にもアイテムと交換出来たり。ユーザーがゲームを楽しむために使う通貨みたいなものかな」
「なるほど、通貨ですか」
ベルガモットが顎に手を当て頷く。
「ようやく理解いたしました。ユーザーはその通貨を使い、衣装を抽選で当てている、ということですね。五十個必要ということは、一つだけでは抽選補助券みたいなものと考えていいのでしょうか。そして石が多ければそのチャンスも増えると」
「そう、そんな感じ!」
解説ありがとう、ベルガモット。
あれ? もしかして私、「ガチャ」の意味もあやふやなまま話を進めていた? ソーシャルゲームのシステム知ってること前提で話しててごめん!
「そう言うことだから、最後に限定衣装を多くの人に手に入れてもらうためにも、石をサービスしてほしいって、運営さんにお願いしてるの」
サービス終了が決まった作品は、石の販売がストップとなる。有償の石に至っては払い戻しのターンにきている以上、マネーパワーで何とかしたいと思っても出来ない層が出てくるのだ。そこを補填する意味でも、買わなくても石が手に入る大盤振る舞い状態にしてあげたい。
「最後の『ログボ演出のスキップ機能とは』どういうことでしょうか?」
そうだよね、ベルガモット。システム面に関しては、いまいち伝わりにくいこと多いよね。
「ログボって言うのは、ログインボーナスのことでね。アロバラの世界にアクセスしてくれた人に、お礼として贈るプレゼントって感じかな。今日も来てくれてありがとう、って」
「なるほど。では、演出とは?」
「ユーザーがアクセスすると、アロマリアの皆がランダムに登場して『ありがとう!』ってプレイヤーに贈り物をするんだ。ポーズとセリフ付きで」
「ポーズとセリフ……」
顎に手をやり思案顔で記憶を探っていた様子のベルガモットが、はたと顔を上げる。
「これのことですか?」
「ん?」
「『ようこそお待ちしておりました、指揮官殿。本日もあなたが健やかな一日を過ごせますよう、ささやかながらこちらを。どうぞお受け取り下さい』」
(んッ、ふッ!!)
不意打ちのキメポーズと何度も聞いたセリフ、それを目の前で理想の権化から再現され、一瞬で脳みそが沸騰する。
(刺激が強い!)
「そ、それ。それぇ……」
口を押さえた指の間から、呻くような声を漏らしつつ、私はふらふらと後ずさりする。すると背中にトンと温かなものが当たった。振り返ればネロリである。
「あ、ネロリ。ごめ……」
ネロリは私と目が合うと、悪戯っぽくウィンクをする。そして私の両肩に手を掛けてくるりと反転させ自分の方を向かせると、ポーズを決めた。
「『やっ、指揮官ちゃん。今日も会えて、オレめっちゃ嬉しい。だーかーらぁ、オレからプレゼントあげちゃうね♪ さ、受け取って♡』」
ちょっ……!
「これで合ってる?」
「あ、合ってるよ! 合ってるけど、わざわざ実演しなくていいから!」
「え? そなの? だってさ、クラリセージ」
ネロリの視線の先では、クラリセージが困惑した表情を浮かべていた。ログインボーナス時のポーズを自分もやらねばならないのかと、軽く練習するような手つきで。
「あ、やらなくていいんですね。あ、はは……」
クラリセージが恥ずかしそうに両手を下ろし、背後に回す。あっ、なんか一人だけ拒否ったような感じになった? 違うよクラリセージ、違うんだ。そのセリフは私が考えたものだから、目の前で演出ポーズをやられると、とんでもなく気恥ずかしいんだ。決して君のが見たくないわけじゃないんだ! むしろ見たかったよぅ。
「それで、これの何が問題だったのでしょう。スキップが必要ということは、……ユーザーの皆様は我々のこの姿を見たくないということでしょうか」
「見たくないわけじゃないと思う。好きなアロマリアの場合は特に。だけど台詞が長いんだよね……。私が自分で書いておいてなんだけど」
そう、実際にプレイして思った。リリースして間もない頃は、この演出にキャッキャしていた。美麗グラフィックとイケボでお出迎え、そしてアイテムまでくれるなんて嬉しいな、と。だけどアロバラも開始から一年以上経っている。三百六十五回以上も同じ演出が繰り返されれば、さすがに飽きてしまうのだ。
なのにセリフの音声が終わるまで、いくらスマホをタップしても次の画面に移ることが出来ない。その後、キラキラリン☆ペッカーン☆という音と共に配布アイテムの表示。更に、『明日はこれをプレゼントするから、必ず来てね』というセリフまで続くのだ。
「タップが三回必要で、しかも一定時間操作できない。これはタイパ的によろしくないんだよね」
「タイパとは?」
「タイムパフォーマンス。人は使える時間が限られてる。だから、少しでも空白の時間を作りたくないって気持ちがあるんだよ」



