宝石神に身を捧げたら、お側においてもらえることになりました〜私を裏切った国など、宝石にして差し上げます〜

 穴の中は、真っ暗だった。だが、月明かりのおかげで、足元はかろうじて見える。それを頼りに奥へ奥へと進んでいった。

 そして、月明かりが届かなくなった頃。

 別の光が、るりを導いてくれるようになった。

 赤、青、緑、黄色。様々な宝石が、黄金に発光する壁からその姿を見せている。常に何かがきらきらとしていて、まるで万華鏡の中に迷い込んだようだった。

 



 きっとここが、宝石の神様の社だ。

 だってこんなにも、美しい。





 どこか納得しつつも、それでも一切ときめかない心。それが悔しくて、胸を何度かどんどんと拳で叩きながら、るりはさらに奥へと進む。

 洞窟の最終地点。行き止まり。

 そこには、小さな神社があった。

 ダイヤモンドの如き透明な宝石を削って作られた、荘厳な社を前に、るりは項垂れた。

 両手を胸の前で組み、願う。





 どうか、お願いです、神様。

 私を連れて行って下さい。

 こんな汚い私で良ければ、そちらに持って行ってください。

 だって、ただ一人生き残ってしまった挙句、こんなに綺麗なものを目にしても感動できない私なんて、要らないんです──。





 頬を伝った涙が一滴、地面に落ちた。

 突如、社から途轍もなく眩しい光が放たれる。その強烈さに、思わずるりは目を瞑った。

 と、



「その涙は、美しい。だがお前は誰だ?」



 誰もいないはずの洞窟に、男性の声が響き渡った。高くも低くもない、でも凛とした声に、るりは聞き惚れる。

 圧倒的な光が収まり、るりはゆっくり瞼を開ける。

 目の前に、一人、立っていた。



 神様。 

 そう表すしかなかった。

 

 絹のような金色の髪に、様々な宝石があしらわれた優美なダイアデム。お月様のように、角度によって色を変える瞳。

 そして何よりも、その姿。

 白い、シルクのように滑らかな衣を1枚、全身にまとっている。それだけならシンプルなのだが、彼が動く度に、シャラ、シャラ、と心地よい衣擦れの音がする。

 それは、最上級の品質の衣服と、彼の身体自体に埋め込まれている宝石が奏でる音だった。

 首元や手首、胸のあたり。彼の白い肌の至る所に細かな金の宝石が生じ、紋様を描いている。



 まるで、彼自身が極限まで美しく加工された芸術品のようで、るりは息を呑んだ。



「なんだ?私が恐ろしくて声も出せないか?足だけ宝石にして、ここに生きたまま閉じ込めてやろうか」



 しゃら、と華美な音と共に、彼はるりにゆっくり近付いてくる。

 目の前まで迫ってそんな脅しを並べる神様に、るりはたった一言、述べた。



「綺麗……」



 途端、神は目を丸くする。

 しばらく訪れる沈黙。

 そして神は、



「はははははは!!」

 

 と、お腹を抱えて笑い始めた。

 きょとん、とするるりに、神は口を開く。



「面白い。この私を前に『綺麗』とは、見る目がある!良いだろう、私は美しいものが好きだ。お前は殺さずにそばにおいてやる」



「い、いえ……!私は今すぐに神様に、」



「だめだ」



 反論しかけるるりを、神は睨みつける。

 その鋭さに、ひゅ、とるりは言葉を呑み込んだ。



「お前が最も美しく笑った時だ。その時に、お前を宝石に変えて飾ってやる。それまでせいぜい、私の元で美しさを磨け。いいな」



 今は赤に見える神の瞳を、るりはただ見つめ、頷くことしか出来なかった。





 死にたかったのに、死ねない。

 宝石にしてもらうまで、このまま神様と共に、暮らすしかない。





 そんな薄っすらとした絶望が、るりの胸を塞いでいった。