「え、リズちゃん入部?」
「どういうこと? やっぱりバスケできたの?」
おれの突然の入部に困惑する先輩たち。そりゃそうだろう。いたたまれない気持ちになっていると、横にいたスバルが「俺が誘いました」と告げた。スバルが誇らしげにしているので、余計に困惑が広がっている。
「あ、えっと……いちおう、昔少しだけやってて。スバルともそこで知り合ってた、っぽくて……」
おれの弁解があまりにもたどたどしすぎて、先輩たちがスバルに向かって「高瀬脅してないよな?」といたずらっぽく笑う。
「脅してないっすよ」
「いろいろあって、バスケ、やめてたんですけど。マネージャーしながら皆さんのこと見てたら、やっぱり、もう一回やりたいなって思ったんです」
みんな、楽しそうだったから。本当はおれだって、バスケがしたかった。
「俺が頼んで入ってもらったんで、難しかったら全然やめる可能性はあります」
スバルがおれを気遣ってか、保険をかける言い方をしてくれる。けれどもう、おれはバスケをやめる気はない。もう逃げたりしない。なにがあっても必死に食らいついて、練習する。
「入るなら最後まで頑張ります。だから大丈夫だよ、スバル」
スバルがふっと微笑む。その顔にひどく安心した。
スバルはすたすたとボールカゴのほうへ歩いていく。
「え、いま、笑った……?」
「高瀬が……?」
その背中を呆然と見ながら、先輩たちがざわついている。高瀬の背中から流されてきた視線に耐え切れず、目を逸らす。
『俺はリズが好きだよ』
あの視線の意味を反芻してしまって、頭から湯気が出そうだ。
「うわあああああ」
「リズちゃん!? 緊張してパニックになってるんじゃない?」
「おーい、高瀬のせいでおかしくなってるぞ」
先輩たちの心配する声に、罪悪感で胸が痛くなる。ちがうんです、おれは、そんなんじゃなくて。
もっと、よこしまな……。
「練習、始めましょうよ」
スバルの声とともに、たくさんのバスケットボールが転がってきた。
自らもボールを手にしたスバルがこちらに歩いてくる。
「そうだな。練習始めるか!!」
キャプテンの合図で空気が変わった。
深呼吸をする。転がってきたボールを拾い上げる。なぜだろう。スバルの練習に付き合うときも、ボール磨きの時も、バスケットボールを触っているはずなのに。
今手に抱えたボールは、なんだか懐かしい感触がした。
☆
ドリブルをして中に切り込む。その瞬間視界の隅で、おれとクロスするように中へと走っていく姿が見えた。ドリブルをしてディフェンスを引き付けたまま、背中の後ろを通してパスを出す。
「え?」
ディフェンスは反応が遅れる。
誰も読めない、一瞬見えた絶妙な軌道。信じてボールを放つと、ディフェンスの間を抜けるようにしてパスが通った。
走りこんだスバルががっしりとそのボールを掴んでいる。
慌てて別のディフェンスがカバーに入ったときには、スバルがレイアップを決めていた。ゴールネットが揺れる。
着地したスバルは、自分の手をじっと見つめていた。
……その手が、おれのパスをとってくれたんだよ。
心の中で語りかける。
「なんだよ今の! はやすぎだろ!」
「意味わかんね! リズちゃんやべえ!」
コート外で見守っていた先輩たちが手をたたいて騒いでいる。
すぐさまディフェンスに戻りながら、スバルが拳を突き出してくる。拳を合わせながら、笑みがこぼれた。



