極悪令嬢の華麗なる公開処刑〜偽善という名の汚物を優雅に剪定いたします〜

 特別寮の最上階は生徒一人に与えられるにはあまりにも広すぎる豪奢な作りをしている。
 応接室のすぐ隣にはダイニング。
 主寝室に侍従の間。
 もちろんバストイレも完備されている。

 広すぎるダイニングテーブルにつくのは翡翠ただ一人。
 翡翠は血の滴るような極上のレアフィレ肉に銀のナイフを沈め、手馴れた所作で優雅に切り分ける。
 空間に響いているのは、優雅なクラシック音楽ではなく、男の情けない悲鳴だった。

『そ、そそ、そんな……! いや、誤解です!』

『そ、そうだ! お小遣いだ!』

 部屋の壁に投影された大型モニターには、昨日のVIPラウンジで滑稽に逃げ惑う五十嵐の姿が大写しになっている。
 ダイニングテーブルの傍らでは、漆黒のスーツに身を包んだ零が、端末を操作しながら恭しく頭を下げた。

「お嬢様。明日の『配信』に向けた動画の荒編集が完了いたしました。いかがでしょうか」

 翡翠はフォークに刺した赤い肉片を艶やかな唇に運び、ゆっくりと咀嚼すると、天使の笑みを浮かべながら映像を一瞥した。

「……んー、そうね。画質が良すぎるせいで、あの男の脂ぎった毛穴まで見えてしまうのは不快だけれど。でも、己のちっぽけな権力の限界を悟り、絶望に染まっていくこの怯えきった表情は……ええ、それなりに芸術的だわ」

「勿体なきお言葉。あの汚物の無様な姿は、お嬢様の恐ろしくも絶対的な美しさを引き立てる、最高の下地に過ぎません」

 零は翡翠へと蕩けるような甘い視線を向けた後、モニターの中の五十嵐へはゴミを見るような絶対的な冷酷さを向ける。
 極端な温度差は、まるで唯一神を崇める狂信者のそれだった。

「ただ、少しスパイスが足りないわね」

 翡翠はグラスを揺らしながら、妖しくも毒々しい微笑みを深める。

「彼が三万円という『お小遣い』を必死に取り出すシーン。あそこの音声、もう少し拾えないかしら? 震える指先と、小金に縋るしかない安っぽいプライドが砕ける音を、全保護者の鼓膜にしっかりお届けしたいの」

「意のままに。あの滑稽な悲鳴と小銭の擦れる音のゲインを、不快にならない程度に最大限引き上げておきましょう」

「ええ、お願い。それから、動画の冒頭には、先日の朝礼で彼が『我が校の伝統と品位』について高説を垂れていた音声を被せてちょうだい。厳格な教師の顔から、パパ活アプリでの卑猥なメッセージ、そして惨めな敗北……最高に皮肉の利いた、偽善のフルコースにして差し上げるのはどうかしら」

 クスクスと、悪魔のように可憐な笑い声が部屋に響く。
 翡翠にとって、人間の尊厳を徹底的に破壊し尽くすことは、テーブルの上のディナーを味わうのと同じだ。
 最も美味しく味わうための調理法に一切の妥協はしない。

「承知いたしました。学園のサーバーを経由し、保護者のメーリングリストおよびスポンサー企業の全役員宛に、明日正午、時限式で一斉送信するようセットいたします。……理事長も、この逃げ場のない『事実』の前では、即座にあの汚物を切り捨てるしか道はないでしょう」

「ええ。彼が最も大切に守ってきた肩書きも、見栄も、権力も。わたくしが根こそぎ燃やして灰にしてあげるわ」

 翡翠は最後に残った赤い肉片を口に運び、酷薄な笑みを深めた。

「さあ、零。明日の正午が楽しみね。あの哀れな男が、自分が築き上げてきた薄っぺらい城の下敷きになって潰れる瞬間……特等席で、じっくりと味見させてもらうわ」

「ええ、すべてはお嬢様の御心のままに」

 零は深く一礼し、再び手元の端末へ冷酷な視線を落とす。
 月曜日の完全なる公開処刑に向けた、致死量の毒を孕んだ晩餐会は、夜更けまで静かに続いていた。