――夏休みのお楽しみは、堂々と深夜放送が見られることである。
そんな持論を持つ高杉は、お気に入りの怪談番組の地上波放送をタオルケットにくるまりながら、リビングのソファにゴロゴロ転がって見ていた。
時計は間もなく深夜十二時を回る。
「ほら、薫。いいかげん寝なさい!」
フェイスパックをつけながら、母親が居間に入ってきた。
ビクッと高杉は背中を震わせた。
「母ちゃん……脅かすなよ! 本物の化け物が出たと思ったじゃん」
「何ですって――!」
母親は、冷蔵庫を開けながら、アルコールフリーの缶チューハイを持ってくる。
「ちょっと、アンタどけて」
どっかりとソファに座り、高杉は仕方なく足を小さく曲げる。
「え? 母ちゃんも見るの? 最後は俺が消すから大丈夫だって! 母ちゃん寝ててよ」
と言えば、フェイスマスクの母親は、ふん、と鼻で笑ったあと、
「あんた、怖いもん好きだけど一人で見れないでしょ。母さん見てるから」
プシュッと缶チューハイのプルタブを開けた。
「そ」
そっけなく返しながら、足先に母親の体温を感じ、ちょっとだけほっとした。
テレビ画面では、深夜特有の長めのCMが入る。
『リンリンリン』と軽快なジングルで始まった。
何かの対談風のCMだ。いつも思うが、どうしてこんな対談風CMってヤラセくさいんだろう?
画面の妙齢の女性アナウンサーが、不必要なほどオーバーリアクションでキンキンとした声を上げる。
『うーん。おいしい! 甘みがあって、さわやかで。これは、玉露ですか?』
すると、白地に縦じまの細いストライプのスーツに黒のワイシャツ、赤のネクタイ姿の中年男性――イケオジというより、紳士という体が、革張りのソファに座りながら答える。
黒光りする肌に白い歯。黒々とした髪はワックスで撫でつけられてる姿で、大きく手を動かす姿は、海外の有名スポークスマンといった感じだった。
「うわ、出た、この社長。十年前からちっとも変わってなくてこっちの方が化け物だわ――」
母親はグビっと缶からチューハイを飲みながら言う。深夜界隈では有名人のようだ。
画面の紳士は答える。
『いえいえ、これは我が社が十年研究をかさねた特製の青汁です』
『え! これ! 青汁なんですか? 琥珀色で澄んでいて、まさか青汁なんて思いません!』
大げさに驚くアナウンサー。
『そうなんです。厳選された素材で、不純物を一切取り除いて純粋な栄養だけを煎じた極上の一杯。実はこんなにたくさんの材料からつくられてるんですよ』
『ほうれん草、チンゲン菜、モロヘイヤ、ケール、ブルーベリー、ビーツ……えっ! トマトもですか?』
『はい。そうですよ。三十種類以上の野菜、果物が入っています。さて、トマトってどんなイメージをお持ちですか?』
『そうですね。品種にもよりますが、外側はぶよぶよで水分がいっぱいで、すっぱい印象ですね』
『そう。それは促成栽培された中身のないトマトですね。ハウスの中で、水も栄養も日光もたっぷり。でも、実はそれではトマト本来のうまみは育たないんです。
トマトはもともとアンデスの標高が高く、植物が育つにはとても厳しい環境で生まれました。そして、そんな環境だからこそ、植物は自分を生かすために、身をしっかり固くして、甘さも抜群です。きびしい環境こそ、じつは、一番素材が生ききれる土壌になるんです。ほら、このほうれん草もどうです?』
アナウンサーは生のほうれん草をかじる。
『え? なにこれ、甘い! わあーー苦くないですね!』
『そうでしょう? 実はこのほうれん草は、なんと雪のなかで育ったものなんです。極寒のギリギリ自分が生きられるかどうかの瀬戸際だからこそ、身体に養分をためるんですね。これが本来の素材の良さなんですよ』
『へー』
『人もね、植物もね、ギリギリのところでようやく本来の力を発揮するんですね。その本来の自然の力を集めた青汁だから、こんなに甘くて、そして栄養価も高いんですよ。
――さらに、この過酷な環境が、もう一つの奇跡を生み出します』
『奇跡、ですか?』
『はい。植物が命の危機に瀕した時、自らの細胞を若返らせ、生き延びようとする防御物質を大量に分泌します。
それがこの琥珀色の正体……独自成分【サーチュイン・エテルナ】です』
『えっ! じゃあ、この澄んだ色が……若返りの成分そのもの!?』
『その通りです。人間の細胞に眠る長寿遺伝子を直接叩き起こす、いわば【命のエキス】。細胞レベルで時間を巻き戻す効果が期待されます』
『ええーー! 夢のような飲み物ですね!
でもこんなにすごい成分が配合されていたら、もちろん、お高いんでしょう?』
『いえ、わが社の特別契約農場による独自の流通により、コストはほぼ原材料、そして精製のみを実現しております。
すべては皆さんの健康のため。健やかにいつまでも若々しく! ――製薬です』
そして、派手なテロップが画面上に流れる。
『――いまなら初回送料無料』
そしてその横に小さく表示される
「一箱(一ヶ月分):二万四千八百円(税込)』
の文字を見た 母親は
「そうは言っても、ばか高いのよね――」
と呟く。
画面が切り替わり、すぐに続きの怪談が流れ始めた。

そんな持論を持つ高杉は、お気に入りの怪談番組の地上波放送をタオルケットにくるまりながら、リビングのソファにゴロゴロ転がって見ていた。
時計は間もなく深夜十二時を回る。
「ほら、薫。いいかげん寝なさい!」
フェイスパックをつけながら、母親が居間に入ってきた。
ビクッと高杉は背中を震わせた。
「母ちゃん……脅かすなよ! 本物の化け物が出たと思ったじゃん」
「何ですって――!」
母親は、冷蔵庫を開けながら、アルコールフリーの缶チューハイを持ってくる。
「ちょっと、アンタどけて」
どっかりとソファに座り、高杉は仕方なく足を小さく曲げる。
「え? 母ちゃんも見るの? 最後は俺が消すから大丈夫だって! 母ちゃん寝ててよ」
と言えば、フェイスマスクの母親は、ふん、と鼻で笑ったあと、
「あんた、怖いもん好きだけど一人で見れないでしょ。母さん見てるから」
プシュッと缶チューハイのプルタブを開けた。
「そ」
そっけなく返しながら、足先に母親の体温を感じ、ちょっとだけほっとした。
テレビ画面では、深夜特有の長めのCMが入る。
『リンリンリン』と軽快なジングルで始まった。
何かの対談風のCMだ。いつも思うが、どうしてこんな対談風CMってヤラセくさいんだろう?
画面の妙齢の女性アナウンサーが、不必要なほどオーバーリアクションでキンキンとした声を上げる。
『うーん。おいしい! 甘みがあって、さわやかで。これは、玉露ですか?』
すると、白地に縦じまの細いストライプのスーツに黒のワイシャツ、赤のネクタイ姿の中年男性――イケオジというより、紳士という体が、革張りのソファに座りながら答える。
黒光りする肌に白い歯。黒々とした髪はワックスで撫でつけられてる姿で、大きく手を動かす姿は、海外の有名スポークスマンといった感じだった。
「うわ、出た、この社長。十年前からちっとも変わってなくてこっちの方が化け物だわ――」
母親はグビっと缶からチューハイを飲みながら言う。深夜界隈では有名人のようだ。
画面の紳士は答える。
『いえいえ、これは我が社が十年研究をかさねた特製の青汁です』
『え! これ! 青汁なんですか? 琥珀色で澄んでいて、まさか青汁なんて思いません!』
大げさに驚くアナウンサー。
『そうなんです。厳選された素材で、不純物を一切取り除いて純粋な栄養だけを煎じた極上の一杯。実はこんなにたくさんの材料からつくられてるんですよ』
『ほうれん草、チンゲン菜、モロヘイヤ、ケール、ブルーベリー、ビーツ……えっ! トマトもですか?』
『はい。そうですよ。三十種類以上の野菜、果物が入っています。さて、トマトってどんなイメージをお持ちですか?』
『そうですね。品種にもよりますが、外側はぶよぶよで水分がいっぱいで、すっぱい印象ですね』
『そう。それは促成栽培された中身のないトマトですね。ハウスの中で、水も栄養も日光もたっぷり。でも、実はそれではトマト本来のうまみは育たないんです。
トマトはもともとアンデスの標高が高く、植物が育つにはとても厳しい環境で生まれました。そして、そんな環境だからこそ、植物は自分を生かすために、身をしっかり固くして、甘さも抜群です。きびしい環境こそ、じつは、一番素材が生ききれる土壌になるんです。ほら、このほうれん草もどうです?』
アナウンサーは生のほうれん草をかじる。
『え? なにこれ、甘い! わあーー苦くないですね!』
『そうでしょう? 実はこのほうれん草は、なんと雪のなかで育ったものなんです。極寒のギリギリ自分が生きられるかどうかの瀬戸際だからこそ、身体に養分をためるんですね。これが本来の素材の良さなんですよ』
『へー』
『人もね、植物もね、ギリギリのところでようやく本来の力を発揮するんですね。その本来の自然の力を集めた青汁だから、こんなに甘くて、そして栄養価も高いんですよ。
――さらに、この過酷な環境が、もう一つの奇跡を生み出します』
『奇跡、ですか?』
『はい。植物が命の危機に瀕した時、自らの細胞を若返らせ、生き延びようとする防御物質を大量に分泌します。
それがこの琥珀色の正体……独自成分【サーチュイン・エテルナ】です』
『えっ! じゃあ、この澄んだ色が……若返りの成分そのもの!?』
『その通りです。人間の細胞に眠る長寿遺伝子を直接叩き起こす、いわば【命のエキス】。細胞レベルで時間を巻き戻す効果が期待されます』
『ええーー! 夢のような飲み物ですね!
でもこんなにすごい成分が配合されていたら、もちろん、お高いんでしょう?』
『いえ、わが社の特別契約農場による独自の流通により、コストはほぼ原材料、そして精製のみを実現しております。
すべては皆さんの健康のため。健やかにいつまでも若々しく! ――製薬です』
そして、派手なテロップが画面上に流れる。
『――いまなら初回送料無料』
そしてその横に小さく表示される
「一箱(一ヶ月分):二万四千八百円(税込)』
の文字を見た 母親は
「そうは言っても、ばか高いのよね――」
と呟く。
画面が切り替わり、すぐに続きの怪談が流れ始めた。




