バスが、プシューという音を立てて、ドアを開ける。
その振動で、目が覚めた。
「起きろよ、スパロウ。もう着いたって」
髪の短いラガーシャツの男子が、小笠原の肩をゆする。
小笠原はまだ覚めきっていない目をこすり、体を伸ばし、リュックに手をかけて通路を通る。
どうやら、自分が最後らしい。
「でっけーリュック」
と笑いながら先を歩く彼は、
「俺は、QB(キュービー)だよ」と名乗った。
(QB……あのいつも一番乗りでチャットに書き込む奴か……)
ここでは皆、ハンドルネームで呼び合うこと、とクイズが始まる前にガイドに言われていたのだ。
だが、まだ、だれがだれやら分からない。
バスから下りると、すでに日は落ちている。霧が深いためか、空は見えない。湿気を含んだ深い木々の香がけむる。ホテルまでの誘導灯だけが煌々と足元を照らして、それを道しるべにして、前に続く。
すると、モダンだが堅牢な木の扉があり、そこを通ると、広いエントランスに案内される。
外の暗さとはまるで正反対のシャンデリアの豪華な内装に、参加者はみな歓声を上げた。
「これから謎解きのヒントになるかもしれないので、スマホなどデジタル機器は引き続きフロントに預けます」
貴重品袋を持った制服姿のホテルスタッフに言われ、
「えーー」「またーー?」と不平を言いながらも、子どもたちは従う。
エントランス中央に自然に集まっていると、館内スピーカーから荘厳なオーケストラのBGMが流れる。
――「新世界より」だ。
するとエントランスに続く両翼の階段の右上から、シルクハットにタキシード。ひらひらとしたマントを翻し、白い仮面を付けたゲームマスターが現れる。バスの中のモニターとまったく同じように手を広げる。
スピーカー越しに声が聞こえる。
「ようこそ、来たね、子どもたち。待っていたよ」
静かな声でそう言うと、ゲームマスターは続けた。
「ここに集うのは、未来の日本の頭脳になるだろう中学生のみんな。
ここまで来れたことを、ぜひ誇ってほしい。
そして、謎解きも楽しみながら食事をしてくれ」
ゲームマスターがマントを翻し演技がかったしぐさで指先を伸ばし、奥の食堂を示した。
みんなはぞろぞろと移動を始める。
食堂に通された子供たちは、そこに用意されている豪華なバイキング料理に目を輝かせた。
バイキングでは、各国料理のクイズが出題された。それはどれも難しいものではなく、子供たちは賑やかにクイズを楽しんでは、料理に舌鼓を打つ。
小笠原もクイズに夢中になって、好きな料理で皿を埋めていた。
******
ホテルのベッドの上で腰をかけたまま、未知はまんじりともせず、外の気配を探っていた。
あれほどおせっかい焼きだったAIロボットが、昼を過ぎてからピクリとも反応しない。
そして、バタバタとこの建物全体で人の立てる物音がするのだ。防音なので、話し声などは聞こえないが、明らかに複数人いる。
そして、夕食だ。まだ配膳箱に入れられてない。
時間の感覚はないけれど、体感の空腹で、すでに夜となっているはずだ。
――これは、犯人側が動くときの前兆ではないだろうか?
そう思って、身を固くしていた。
そうすると、今度はにわかに扉の向こう側が騒がしくなっていることに気づいた。
どこかへまた連れていかれるのか……最悪の事態と、それを打開できるチャンスを、未知は頭の中で巡らせていた。
その時だ。
今まで開くことのなかった部屋の扉のロックが「ガチャリ」と音を立てた。
なんとも簡単に、解錠されたのだ。
未知はそうっと扉を開き、部屋の外へ出た。
静かに足音を立てずに歩くが、足元はふんわりした高級なカーペットで、続く廊下には何個もの扉がある。
――やはり、ここはホテルだったのだ。
長い廊下を歩くと、ようやく話し声が聞こえた。
天井に豪華なシャンデリアが吊り下げられた大理石造りのエントランスホール。そのエントランスをかこむように客室に続く両翼の階段がある。
未知がいたのは、左翼側だった。階段の陰に体を隠し、その様子を物陰から見つめた。
エントランスには、大きな荷物を抱えた未知と同じ年ごろの何人もの子供たち。
何人いるのだろうと数えるが、その子供たちの目線の先に、マジシャンのような人物を見つけ、未知は手を止める。
ネット上で見覚えがあるその姿は、まさしく『ゲームの達人』の、ゲームマスターだ。
しかし、未知は、その姿を見て、足元が凍るような感覚を覚えた。
未知が戦慄したのは、ゲームマスターの姿ではなかった。
――仮面をつけている、その人物の中身は、誰?
シルクハットから覗く金の巻き毛に総毛立つ。
その雰囲気、その佇まい。
そしてひらひらとあざけるように舞う白い手袋の内側に隠れているのが、もしもあの傷ならば……!
(まさか、あれは、イワンなの!?)
その振動で、目が覚めた。
「起きろよ、スパロウ。もう着いたって」
髪の短いラガーシャツの男子が、小笠原の肩をゆする。
小笠原はまだ覚めきっていない目をこすり、体を伸ばし、リュックに手をかけて通路を通る。
どうやら、自分が最後らしい。
「でっけーリュック」
と笑いながら先を歩く彼は、
「俺は、QB(キュービー)だよ」と名乗った。
(QB……あのいつも一番乗りでチャットに書き込む奴か……)
ここでは皆、ハンドルネームで呼び合うこと、とクイズが始まる前にガイドに言われていたのだ。
だが、まだ、だれがだれやら分からない。
バスから下りると、すでに日は落ちている。霧が深いためか、空は見えない。湿気を含んだ深い木々の香がけむる。ホテルまでの誘導灯だけが煌々と足元を照らして、それを道しるべにして、前に続く。
すると、モダンだが堅牢な木の扉があり、そこを通ると、広いエントランスに案内される。
外の暗さとはまるで正反対のシャンデリアの豪華な内装に、参加者はみな歓声を上げた。
「これから謎解きのヒントになるかもしれないので、スマホなどデジタル機器は引き続きフロントに預けます」
貴重品袋を持った制服姿のホテルスタッフに言われ、
「えーー」「またーー?」と不平を言いながらも、子どもたちは従う。
エントランス中央に自然に集まっていると、館内スピーカーから荘厳なオーケストラのBGMが流れる。
――「新世界より」だ。
するとエントランスに続く両翼の階段の右上から、シルクハットにタキシード。ひらひらとしたマントを翻し、白い仮面を付けたゲームマスターが現れる。バスの中のモニターとまったく同じように手を広げる。
スピーカー越しに声が聞こえる。
「ようこそ、来たね、子どもたち。待っていたよ」
静かな声でそう言うと、ゲームマスターは続けた。
「ここに集うのは、未来の日本の頭脳になるだろう中学生のみんな。
ここまで来れたことを、ぜひ誇ってほしい。
そして、謎解きも楽しみながら食事をしてくれ」
ゲームマスターがマントを翻し演技がかったしぐさで指先を伸ばし、奥の食堂を示した。
みんなはぞろぞろと移動を始める。
食堂に通された子供たちは、そこに用意されている豪華なバイキング料理に目を輝かせた。
バイキングでは、各国料理のクイズが出題された。それはどれも難しいものではなく、子供たちは賑やかにクイズを楽しんでは、料理に舌鼓を打つ。
小笠原もクイズに夢中になって、好きな料理で皿を埋めていた。
******
ホテルのベッドの上で腰をかけたまま、未知はまんじりともせず、外の気配を探っていた。
あれほどおせっかい焼きだったAIロボットが、昼を過ぎてからピクリとも反応しない。
そして、バタバタとこの建物全体で人の立てる物音がするのだ。防音なので、話し声などは聞こえないが、明らかに複数人いる。
そして、夕食だ。まだ配膳箱に入れられてない。
時間の感覚はないけれど、体感の空腹で、すでに夜となっているはずだ。
――これは、犯人側が動くときの前兆ではないだろうか?
そう思って、身を固くしていた。
そうすると、今度はにわかに扉の向こう側が騒がしくなっていることに気づいた。
どこかへまた連れていかれるのか……最悪の事態と、それを打開できるチャンスを、未知は頭の中で巡らせていた。
その時だ。
今まで開くことのなかった部屋の扉のロックが「ガチャリ」と音を立てた。
なんとも簡単に、解錠されたのだ。
未知はそうっと扉を開き、部屋の外へ出た。
静かに足音を立てずに歩くが、足元はふんわりした高級なカーペットで、続く廊下には何個もの扉がある。
――やはり、ここはホテルだったのだ。
長い廊下を歩くと、ようやく話し声が聞こえた。
天井に豪華なシャンデリアが吊り下げられた大理石造りのエントランスホール。そのエントランスをかこむように客室に続く両翼の階段がある。
未知がいたのは、左翼側だった。階段の陰に体を隠し、その様子を物陰から見つめた。
エントランスには、大きな荷物を抱えた未知と同じ年ごろの何人もの子供たち。
何人いるのだろうと数えるが、その子供たちの目線の先に、マジシャンのような人物を見つけ、未知は手を止める。
ネット上で見覚えがあるその姿は、まさしく『ゲームの達人』の、ゲームマスターだ。
しかし、未知は、その姿を見て、足元が凍るような感覚を覚えた。
未知が戦慄したのは、ゲームマスターの姿ではなかった。
――仮面をつけている、その人物の中身は、誰?
シルクハットから覗く金の巻き毛に総毛立つ。
その雰囲気、その佇まい。
そしてひらひらとあざけるように舞う白い手袋の内側に隠れているのが、もしもあの傷ならば……!
(まさか、あれは、イワンなの!?)



