東京駅でバスを見送った佐藤刑事はすぐに小川と平屋を後部座席にのせ、助手席に乗り込む。運転席のみゆお刑事は、三人がシートベルトを着用するとすぐに追跡を開始した。
平屋のタブレットに映し出された地図には、小さな赤い点が点滅し、バスが順調に高速道路を進んでいることを示している。
「これで、小笠原くんの居場所は常に把握できますね」
平屋が安堵の表情で言った。小川は改めて頭を下げた。
「パトカー、出してくださってありがとうございます!」
「ふん……。お前らが単身、東京駅に乗り込むっていうからな。お前ら野放しの方がよっぽどあぶねえ。テロリストの銃口の前でもひょいと現れそうだ!」
「はは……」と小川は苦笑いした。
「それに、あの招待状が暗号になっていて、東京駅が本当の集合場所だったと突き止めたんだ」
佐藤刑事が感心したように呟いた。
「あの招待状は、単なる参加者選抜のテストだったということだ。
暗号を解けない者は、本当のゲームには参加できないとは。子供向けのゲームイベントのくせにずいぶん手がこんでるじゃねーか」
「だからこそ、違和感があるんです」
と小川は言うと、すかさず平屋も不満そうに声を上げた。
「せっかく準備して来てる新宿の人たちに『はずれー!』なんていうやり口も、性格悪いですよ」
(お前が言うか……)
小川はその物言いにちょっと笑った。
「新宿のゲームの達人スタッフに、今聞き取りしている。『ゲームの達人』の運営母体がどんな会社か。そこから何かつながりが見えるかもしれない。今はこれが、唯一、有栖川美知さんにつながる手がかりよ……!」
みゆお刑事が鋭い目で前方の車両を見据えながら答える。
「いま、小笠原くんのマイクの音源、流していきますね」
平屋がスピーカーに設定すると、ザザッというノイズ混じりだが、バスの車内の賑やかな声が聞こえてきて、四人はホッと胸を撫で下ろした。
スピーカーからは、バスガイドのやわらかい声が響く。
「それでは、サマーゲームパーティー、ミステリーツアーにようこそ!
いまから皆さんで、ゲームの達人からのクイズに答えてもらいます。
行き先は、クイズの中に隠れています! 答えのヒントになるかもしれないので、ここでスマートフォンや電波時計などはいったん回収させていただきます。
また、演出効果のため、車内のカーテンをおろしてください」
そのガイドの声に、「えー」とか「もう?」とか不満げな声の後、カチャカチャと、スマートフォンなどを回収し始めた音、カーテンをおろす「シャッ」という布ずれの音が聞こえる。
「小笠原くんたちが乗ってるバスは今、何してる?」
後ろを向きながら佐藤刑事が尋ねる。
「ゲームマスターからのクイズが始まるみたいです」
平屋は音量を上げた。
******
ドン、ドンという軽快なリズムのBGMにのって、「ゲームの達人」サイトでおなじみのゲームマスターの声が車内のスピーカーから聞こえた。おかしげにデジタル処理された声だ。
「やあ、みんな。
よく東京駅だと分かったね。さすがだ。
さあ、今日はミステリーツアーなので、これから向かう場所も謎に包まれている。
これから出題される問題に、君たちの行き先のヒントが隠されているから、そこがどこか当ててほしい。
さあ、クイズが始まるよ! 答えてごらん」
小笠原が顔を上げると、バスの前方がぐるりとカーテンに覆われ、運転席とバスガイドの姿が完全に隠された。
代わって天井から降りてきたのは、一台の大きなモニターだ。
バス車内の照明も派手なミラーボールの光に変わる。リズミカルな音楽とともに、画面の中にゲームの達人が姿を現す。
口角がぐっと吊り上がった白い仮面に、仰々しいシルクハット。大きなスパンコールの蝶ネクタイに、光沢のある燕尾服。白い手袋のマジシャンのようにくるくると手を回す姿は、サイトで見るおなじみのものだった。
モニターに最初の問題が映し出された。
【問題一】
古来より、その美しい姿から日本の象徴とされてきたこの山には、桜の花のように美しい女神が住んでいると信じられていました。
天孫ニニギノミコトが、彼女の姉ではなく、彼女を選んで結婚したことで、人々の寿命は限りあるものになったと伝えられています。さて、この女神が住むとされる山は何でしょう?
バスは大型で、一人二席を使って悠々と乗っているので、相談しようにも、通路を挟んで声がけするしかない。
「分かる?」「しらない」などと声が上がる。
ざわめきの中で、ひときわ大きな女の子の声が響いた。
「富士山!」
その声に反応するように、モニターには大きく
「正解!」
と表示され、おお――、と歓声があがる。
ゲームの達人は満足げに頷き、解説を始めた。
「その通り、富士山だ。簡単だったかな?
コノハナサクヤヒメは、富士山の神として祀られている。彼女の伝説は、富士山が神聖な山であることの証でもあるんだ」
続いて、次の問題が映し出される。
【問題二】
千円札のモチーフにもなっている、葛飾北斎が七十歳を過ぎてから手掛けた、富士山をテーマにした浮世絵の代表的なシリーズの最終的な作品数はいくつでしょうか?
先ほどより大きくざわめきが起こる。前の席の奴らが頭をゆらしている。みな一様に考え込んでるように見えた。
「これって、『富嶽三十六景』のことだよな? でも、最終的な作品数って……」
(普通に考えれば三十六じゃないのか?)
小笠原も首を傾げる。しばらくの沈黙の後、一人の男子が手を挙げた。
「三十六じゃないのか?」
と声を上げると、無情にも、
「ブブー」
とブザー音が鳴り、画面が青く反転した。
おずおずと後ろの方から手が上がる。
「……あの……私、美術部で……。多分、四十六枚……じゃないですか?」
ゲームの達人は満足げに再び頷き、モニターに赤く「正解!」の文字が大きく表示される。
ゲームマスターの解説が始まる。
「素晴らしい! 正解は四十六枚だ。このシリーズは、一般的には『富嶽三十六景』として知られているが、実は追加で十枚の作品が描かれ、最終的には四十六枚になる。
その内訳は、表富士三十六景と裏富士十景だ」
「へ――――」
車内から感嘆の声が漏れる。
「裏富士なんてあるんだ……」
小笠原は思わずつぶやいた。
【問題三】
古くから、その湖には九つの頭を持つ恐ろしい龍が住みつき、人々を苦しめていました。しかし、ある高僧が、毒酒と毒を消す力を持つ赤飯と餅を捧げ、龍を調伏し、村人たちはようやく安寧を手に入れたと伝えられています。さて、この九頭龍伝説が残る湖の名前は何でしょう?
この問題には、多くの子供たちがすぐに反応した。
「ああ、これは知ってる! 箱根のやつだろ?」
どこかで「せーの」と掛け声が上がり、
「「芦ノ湖!」」
と多くの声が重なった。同時にモニターに赤く「正解!」と表示されると、バスの中は「やったー!」と歓声に包まれた。
「芦ノ湖だ! 箱根だ!」
「楽しみだね!」
そんな声が上がる。
子どもたちは皆、自分たちの目的地が箱根だと確信し、これから始まるミステリーツアーに胸を躍らせた。
平屋のタブレットに映し出された地図には、小さな赤い点が点滅し、バスが順調に高速道路を進んでいることを示している。
「これで、小笠原くんの居場所は常に把握できますね」
平屋が安堵の表情で言った。小川は改めて頭を下げた。
「パトカー、出してくださってありがとうございます!」
「ふん……。お前らが単身、東京駅に乗り込むっていうからな。お前ら野放しの方がよっぽどあぶねえ。テロリストの銃口の前でもひょいと現れそうだ!」
「はは……」と小川は苦笑いした。
「それに、あの招待状が暗号になっていて、東京駅が本当の集合場所だったと突き止めたんだ」
佐藤刑事が感心したように呟いた。
「あの招待状は、単なる参加者選抜のテストだったということだ。
暗号を解けない者は、本当のゲームには参加できないとは。子供向けのゲームイベントのくせにずいぶん手がこんでるじゃねーか」
「だからこそ、違和感があるんです」
と小川は言うと、すかさず平屋も不満そうに声を上げた。
「せっかく準備して来てる新宿の人たちに『はずれー!』なんていうやり口も、性格悪いですよ」
(お前が言うか……)
小川はその物言いにちょっと笑った。
「新宿のゲームの達人スタッフに、今聞き取りしている。『ゲームの達人』の運営母体がどんな会社か。そこから何かつながりが見えるかもしれない。今はこれが、唯一、有栖川美知さんにつながる手がかりよ……!」
みゆお刑事が鋭い目で前方の車両を見据えながら答える。
「いま、小笠原くんのマイクの音源、流していきますね」
平屋がスピーカーに設定すると、ザザッというノイズ混じりだが、バスの車内の賑やかな声が聞こえてきて、四人はホッと胸を撫で下ろした。
スピーカーからは、バスガイドのやわらかい声が響く。
「それでは、サマーゲームパーティー、ミステリーツアーにようこそ!
いまから皆さんで、ゲームの達人からのクイズに答えてもらいます。
行き先は、クイズの中に隠れています! 答えのヒントになるかもしれないので、ここでスマートフォンや電波時計などはいったん回収させていただきます。
また、演出効果のため、車内のカーテンをおろしてください」
そのガイドの声に、「えー」とか「もう?」とか不満げな声の後、カチャカチャと、スマートフォンなどを回収し始めた音、カーテンをおろす「シャッ」という布ずれの音が聞こえる。
「小笠原くんたちが乗ってるバスは今、何してる?」
後ろを向きながら佐藤刑事が尋ねる。
「ゲームマスターからのクイズが始まるみたいです」
平屋は音量を上げた。
******
ドン、ドンという軽快なリズムのBGMにのって、「ゲームの達人」サイトでおなじみのゲームマスターの声が車内のスピーカーから聞こえた。おかしげにデジタル処理された声だ。
「やあ、みんな。
よく東京駅だと分かったね。さすがだ。
さあ、今日はミステリーツアーなので、これから向かう場所も謎に包まれている。
これから出題される問題に、君たちの行き先のヒントが隠されているから、そこがどこか当ててほしい。
さあ、クイズが始まるよ! 答えてごらん」
小笠原が顔を上げると、バスの前方がぐるりとカーテンに覆われ、運転席とバスガイドの姿が完全に隠された。
代わって天井から降りてきたのは、一台の大きなモニターだ。
バス車内の照明も派手なミラーボールの光に変わる。リズミカルな音楽とともに、画面の中にゲームの達人が姿を現す。
口角がぐっと吊り上がった白い仮面に、仰々しいシルクハット。大きなスパンコールの蝶ネクタイに、光沢のある燕尾服。白い手袋のマジシャンのようにくるくると手を回す姿は、サイトで見るおなじみのものだった。
モニターに最初の問題が映し出された。
【問題一】
古来より、その美しい姿から日本の象徴とされてきたこの山には、桜の花のように美しい女神が住んでいると信じられていました。
天孫ニニギノミコトが、彼女の姉ではなく、彼女を選んで結婚したことで、人々の寿命は限りあるものになったと伝えられています。さて、この女神が住むとされる山は何でしょう?
バスは大型で、一人二席を使って悠々と乗っているので、相談しようにも、通路を挟んで声がけするしかない。
「分かる?」「しらない」などと声が上がる。
ざわめきの中で、ひときわ大きな女の子の声が響いた。
「富士山!」
その声に反応するように、モニターには大きく
「正解!」
と表示され、おお――、と歓声があがる。
ゲームの達人は満足げに頷き、解説を始めた。
「その通り、富士山だ。簡単だったかな?
コノハナサクヤヒメは、富士山の神として祀られている。彼女の伝説は、富士山が神聖な山であることの証でもあるんだ」
続いて、次の問題が映し出される。
【問題二】
千円札のモチーフにもなっている、葛飾北斎が七十歳を過ぎてから手掛けた、富士山をテーマにした浮世絵の代表的なシリーズの最終的な作品数はいくつでしょうか?
先ほどより大きくざわめきが起こる。前の席の奴らが頭をゆらしている。みな一様に考え込んでるように見えた。
「これって、『富嶽三十六景』のことだよな? でも、最終的な作品数って……」
(普通に考えれば三十六じゃないのか?)
小笠原も首を傾げる。しばらくの沈黙の後、一人の男子が手を挙げた。
「三十六じゃないのか?」
と声を上げると、無情にも、
「ブブー」
とブザー音が鳴り、画面が青く反転した。
おずおずと後ろの方から手が上がる。
「……あの……私、美術部で……。多分、四十六枚……じゃないですか?」
ゲームの達人は満足げに再び頷き、モニターに赤く「正解!」の文字が大きく表示される。
ゲームマスターの解説が始まる。
「素晴らしい! 正解は四十六枚だ。このシリーズは、一般的には『富嶽三十六景』として知られているが、実は追加で十枚の作品が描かれ、最終的には四十六枚になる。
その内訳は、表富士三十六景と裏富士十景だ」
「へ――――」
車内から感嘆の声が漏れる。
「裏富士なんてあるんだ……」
小笠原は思わずつぶやいた。
【問題三】
古くから、その湖には九つの頭を持つ恐ろしい龍が住みつき、人々を苦しめていました。しかし、ある高僧が、毒酒と毒を消す力を持つ赤飯と餅を捧げ、龍を調伏し、村人たちはようやく安寧を手に入れたと伝えられています。さて、この九頭龍伝説が残る湖の名前は何でしょう?
この問題には、多くの子供たちがすぐに反応した。
「ああ、これは知ってる! 箱根のやつだろ?」
どこかで「せーの」と掛け声が上がり、
「「芦ノ湖!」」
と多くの声が重なった。同時にモニターに赤く「正解!」と表示されると、バスの中は「やったー!」と歓声に包まれた。
「芦ノ湖だ! 箱根だ!」
「楽しみだね!」
そんな声が上がる。
子どもたちは皆、自分たちの目的地が箱根だと確信し、これから始まるミステリーツアーに胸を躍らせた。



