締め切り日までもう何日もなかった。いまだ三首目は一文字も思い浮かばない。図書館で恋に関する本をたくさん読んでみた。先輩や後輩にもおすすめを聞いて何冊か読んでみた。
ちょっとだけ、誰かに思われ思いあう関係をいいなと思ったけれど、そういう立場に僕が立つのは面映ゆい気がした。
そう言えば、あの「しのぶれど」の子は、陸翔に告白したらしい。僕が見ただけでも、しのべてなかったし、むしろ「こいすてふ」の方だ。
陸翔は中学から一貫して、「好きな人がいる」と、答えて断っているそうだ。それは、陸翔の周りから聞かされた。陸翔はそう言う話を僕にはしないから。
でも、陸翔だって高二だ。恋人の一人や二人欲しいのかもしれない。好きな人とうまくいって……いってしまったら、今みたいに一緒に帰ることもできなくなるのかな。
「今日明日 明後日いつも いつまでも 君と二人で 並んで帰る」
そうか、いつまでもって実はすごく難しいことだったんだ。高校が終われば次は大学、社会人いつまでも一緒にいられるわけではないのだから。だけど、そうだと良いなっていう、僕の願望。
「こいこいこいこい」
ますます分からなくなって途方に暮れた。
時計を見ると十八時十五分、陸翔の部活が終わる時間だ。慌てて机の上を片付けようとして、ペンケースを吹っ飛ばし、中身をぶちまけてしまった。
「大丈夫?」
そう言って拾うのを手伝ってくれたのは、文芸部の先輩だった。
「めっちゃ悩んでたね」
消しゴムを受け取りながら、見上げると先輩は苦笑いを浮かべている。見られていたことに恥ずかしくなる。文芸部でも珍しい男の先輩だ。一緒に屈んでいたせいか、思ったよりも近くにいた。思わず逃げて尻もちをついた。恥に恥を重ねて情けなくなる。
「今回の課題難しくないですか?」
情けないついでに愚痴をこぼした。
「そうかな、小山田君の二つとも良かったって部で評判だよ。きっと彼のおかげかな」
先輩はそう言って視線を図書館の入り口を見る。陸翔がすでに立っていた。教室にいない時は図書館。僕の少ない居場所を陸翔はよく知っている。どうやら教室にいなかったから、ここまで迎えに来てくれたみたいだ。
「あ、」
陸翔はすごい速さで僕の近くまで来ると、僕の手を引いて立たせてくれた。残っていたものを雑にカバンに突っ込むとそのまま手を引いて図書館を出てしまう。
「なんで、顔が赤いの?」
聞いたことがないくらい低い声だった。
下駄箱までずっと無言で、バスに乗っても何も話してくれない。なのに、混んでいるバスの中ではずっと背中に手が回っていた。
陸翔が変だ。どうしよう。なんか、怒っているようで怖い。
「りっくん……」
声をかけても返事をしてくれなかった。ただ、ずっと手首をつかまれていて、それが痛くもないのにひりひりする。
「公園」
やっと口を開いたのは、近所の公園に差し掛かった時だった。いつもならまっすぐ家に帰るのに、寄り道するみたいだ。引かれるまま公園に入っていく。この時間、学校帰りの人がちらほらいるくらいでほとんど人がいなかった。
「りっくん」
「なんだよ!」
大きな声に驚いてしまった。それで、つかまれた腕を振り払った。思ったよりも強く掴まれてはいなかったみたいだ。
ここまでずっと、陸翔の歩幅で歩いたから大変だった。すぐ近くのベンチに座って息を吐く。陸翔も少しためらってから、横に座った。
「りっくん、今日はなんか変だ。いや、今日だけじゃない。ここのところずっと」
思わずつぶやくと、陸翔が足元の小石を蹴った。
「変なのはちーのほうだ。なんで、あんな奴にあんな顔してたの」
一瞬何を言われたかわからず考えた。
「あー、あの人は三年の文芸部の先輩だよ。消しゴム拾ってくれて」
「なんか仲良さそうに見えた」
「文芸部の数少ない男同士だからね。話はするよ。でも、ちょっとあの距離は嫌だったな。驚いちゃった。だから変な顔になってたのかな」
そう言って、陸翔を見ると、あの時の先輩と同じくらいの距離で僕を見ていた。
「この距離って特別だろ」
陸翔はそう言って僕の目の奥を覗き込む。陸翔なら嫌じゃないな。
「そうだね……」
「それを許していいのは?」
「りっくんだけ?」
陸翔はねぎらうように、抱きしめてきた。
「あっ」
そうか、そうか、そうか。
「そっかー」
僕の唐突な声に陸翔が驚いて、離してくれた。悩んでいたピースがかちりとはまる。ただ、浮かんだ答えを今すぐ答え合わせする気にはなれなかった。
「りっくんには好きな人がいるって聞いたんだ。「こいすてふ」だ」
「……なにを?」
「りっくん。僕、気付いたよ。でもちょっと待って、三首目ができたら答え合わせしよう」
僕はそう言って、陸翔の手を取って立ち上がった。ゆっくり立ち上がるのを待って抱きしめる。
そうか、そうか、そうか。
にっこりと笑って見せたけど、陸翔は不思議な顔のまま固まっていた。
「あいみての のちのこころに くらぶれば だね」
なぜかそのあとの陸翔は抜け殻みたいだった。なんだか体も透けて見える気がして、もう一回笑ってしまった。
ちょっとだけ、誰かに思われ思いあう関係をいいなと思ったけれど、そういう立場に僕が立つのは面映ゆい気がした。
そう言えば、あの「しのぶれど」の子は、陸翔に告白したらしい。僕が見ただけでも、しのべてなかったし、むしろ「こいすてふ」の方だ。
陸翔は中学から一貫して、「好きな人がいる」と、答えて断っているそうだ。それは、陸翔の周りから聞かされた。陸翔はそう言う話を僕にはしないから。
でも、陸翔だって高二だ。恋人の一人や二人欲しいのかもしれない。好きな人とうまくいって……いってしまったら、今みたいに一緒に帰ることもできなくなるのかな。
「今日明日 明後日いつも いつまでも 君と二人で 並んで帰る」
そうか、いつまでもって実はすごく難しいことだったんだ。高校が終われば次は大学、社会人いつまでも一緒にいられるわけではないのだから。だけど、そうだと良いなっていう、僕の願望。
「こいこいこいこい」
ますます分からなくなって途方に暮れた。
時計を見ると十八時十五分、陸翔の部活が終わる時間だ。慌てて机の上を片付けようとして、ペンケースを吹っ飛ばし、中身をぶちまけてしまった。
「大丈夫?」
そう言って拾うのを手伝ってくれたのは、文芸部の先輩だった。
「めっちゃ悩んでたね」
消しゴムを受け取りながら、見上げると先輩は苦笑いを浮かべている。見られていたことに恥ずかしくなる。文芸部でも珍しい男の先輩だ。一緒に屈んでいたせいか、思ったよりも近くにいた。思わず逃げて尻もちをついた。恥に恥を重ねて情けなくなる。
「今回の課題難しくないですか?」
情けないついでに愚痴をこぼした。
「そうかな、小山田君の二つとも良かったって部で評判だよ。きっと彼のおかげかな」
先輩はそう言って視線を図書館の入り口を見る。陸翔がすでに立っていた。教室にいない時は図書館。僕の少ない居場所を陸翔はよく知っている。どうやら教室にいなかったから、ここまで迎えに来てくれたみたいだ。
「あ、」
陸翔はすごい速さで僕の近くまで来ると、僕の手を引いて立たせてくれた。残っていたものを雑にカバンに突っ込むとそのまま手を引いて図書館を出てしまう。
「なんで、顔が赤いの?」
聞いたことがないくらい低い声だった。
下駄箱までずっと無言で、バスに乗っても何も話してくれない。なのに、混んでいるバスの中ではずっと背中に手が回っていた。
陸翔が変だ。どうしよう。なんか、怒っているようで怖い。
「りっくん……」
声をかけても返事をしてくれなかった。ただ、ずっと手首をつかまれていて、それが痛くもないのにひりひりする。
「公園」
やっと口を開いたのは、近所の公園に差し掛かった時だった。いつもならまっすぐ家に帰るのに、寄り道するみたいだ。引かれるまま公園に入っていく。この時間、学校帰りの人がちらほらいるくらいでほとんど人がいなかった。
「りっくん」
「なんだよ!」
大きな声に驚いてしまった。それで、つかまれた腕を振り払った。思ったよりも強く掴まれてはいなかったみたいだ。
ここまでずっと、陸翔の歩幅で歩いたから大変だった。すぐ近くのベンチに座って息を吐く。陸翔も少しためらってから、横に座った。
「りっくん、今日はなんか変だ。いや、今日だけじゃない。ここのところずっと」
思わずつぶやくと、陸翔が足元の小石を蹴った。
「変なのはちーのほうだ。なんで、あんな奴にあんな顔してたの」
一瞬何を言われたかわからず考えた。
「あー、あの人は三年の文芸部の先輩だよ。消しゴム拾ってくれて」
「なんか仲良さそうに見えた」
「文芸部の数少ない男同士だからね。話はするよ。でも、ちょっとあの距離は嫌だったな。驚いちゃった。だから変な顔になってたのかな」
そう言って、陸翔を見ると、あの時の先輩と同じくらいの距離で僕を見ていた。
「この距離って特別だろ」
陸翔はそう言って僕の目の奥を覗き込む。陸翔なら嫌じゃないな。
「そうだね……」
「それを許していいのは?」
「りっくんだけ?」
陸翔はねぎらうように、抱きしめてきた。
「あっ」
そうか、そうか、そうか。
「そっかー」
僕の唐突な声に陸翔が驚いて、離してくれた。悩んでいたピースがかちりとはまる。ただ、浮かんだ答えを今すぐ答え合わせする気にはなれなかった。
「りっくんには好きな人がいるって聞いたんだ。「こいすてふ」だ」
「……なにを?」
「りっくん。僕、気付いたよ。でもちょっと待って、三首目ができたら答え合わせしよう」
僕はそう言って、陸翔の手を取って立ち上がった。ゆっくり立ち上がるのを待って抱きしめる。
そうか、そうか、そうか。
にっこりと笑って見せたけど、陸翔は不思議な顔のまま固まっていた。
「あいみての のちのこころに くらぶれば だね」
なぜかそのあとの陸翔は抜け殻みたいだった。なんだか体も透けて見える気がして、もう一回笑ってしまった。

