最近やたらと前の席の子の行動が気になる。
授業中、板書をするためにほとんどの生徒が前を向いている中、彼女は妙に右側を気にしているようで。僕はそれに気づいてから、彼女の視線の先が気になるようになった。
彼女の名前は佐々木詩乃。大人数で連むのが苦手そうな、大人しい女の子。そんな彼女の視線の先にいつもいるのは、古賀悠人だ。僕にとってこのクラスになって初めてできた友達で、彼も彼女と同様、一人で居ることを好む大人しい性格。
彼女はいつも右隣の席の悠人の事を気にしている。
英語の授業で突然当てられた悠人を心配して、答えを小さな声で囁いたり、昼休みに小説に夢中になっている悠人に、何度も話しかけようとしては行動出来ずにいる姿をよく見るから、彼女は悠人のことが好きなんだと思う。
それと、その気持ちにこのクラスの大半は気がついている。誰もその事を特に彼女本人や、悠人に告げ口はしない。そっと見守っていきたいと思わせる、彼女の人柄がそうさせているんだと思う。
「悠人さ、好きな子いる?」
「…え?どうしたの急に」
「いやー、そういう話したことなかったなーって」
「あぁ…うーん、僕あまりそういうの分からなくて」
「だよな〜悠人はそうだよな」
「うん?」
「いや、別に何も無いんだけどさ気になったから聞いただけ」
「ふーん」
放課後、悠人の家でおすすめの小説を読ませてもらっている時に、僕らはそんな会話をした。僕は悠人から恋愛の話を聞いたことがない。
男子高校生は特に年頃だからか、元カノの話や他人の経験の話で盛り上がったりするのに、悠人からは一切その手の話は出てこない。
それでも悠人はいつも幸せそうな顔をしている。小説が好きで、毎日色んな世界へ没入しているからか、恋愛を語っているクラスメイトよりも充実してそう。
僕は、そんな所が友達として好きだ。類を見ないから話してみたいと思ったし、実際会話をしていても面白い。悠人と友達になるまで小説とは無縁だったのに、今ではオススメを紹介出来るくらい、好きな作家も出来た。
でもほんの少しだけ、友達として気がかりでもある。だって、普通の男子高校生が女子に全く興味がないなんて、そんな話聞いたことがない。
所謂、「陰キャ」と呼ばれる男子生徒だって、話を聞くと彼女がいたり、元カノがいたりする。反対に、馬鹿なことばっかりしている「陽キャ」も、友達といるのが最高に楽しいって顔をしときながら、やることやってたりするし。
この先悠人も大人になって、ゆっくり恋愛を知っていくんだろうけれど、この高校生という多感な時期に色恋が全くないというのは、将来後悔してもおかしくないと思う。
かなりお節介だと言うことは気づいているけれど、きっと僕は、その手の話を悠人がしたらどんな顔をするのか、見てみたいと思ってしまっている。
体育の時間、男子がソフトボールをしている中、女子は隣でサッカーをしていて、珍しくグラウンドを一緒に使っていた。
ふと、悠人を見ると、何かを見てフッと吹き出して笑っている。悠人の視線の先を辿ると、そこには佐々木詩乃の姿があった。サッカーボールの扱いがとんでもなく下手くそで、リフティングを練習しているみたいだが、全く出来ていない。あまりの下手さに、僕も釣られて笑ってしまった。
「いや、下手すぎだろあれ」
「ん?だね、さっきも蹴るの空振ってて、面白かった」
「お、悠人、佐々木さんのことずっと見てたの?」
少し茶化すつもりで軽く言った言葉なのに、悠人は照れた表情を見せた。
「み、見てないよ?なんか最近、すぐ佐々木さんの事見つけちゃうだけ」
「悠人、それって…」
「はーい!お前ら集まれ〜」
踏み込んだことを聞こうとした時、先生からの集合の合図で会話が途切れてしまった。
でも、僕は今の悠人の一言で確信した。悠人は、恋愛をしないとか興味が無いとかではなくて、ただ気づいてないだけだ。それにきっと、彼女の視線も自分と同じだということを気づいていない。
それからは、悠人と彼女の視線のすれ違いに、僕だけが気がつくようになった。友達としてはなんともむず痒く、お互いが見つめているタイミングを教えてあげたいくらいだった。
「告白、しないの?」
「ん?告白?!」
唐突にそう聞くと、悠人は驚いた表情で僕を見つめた。
「僕が?だれに?」
「誰にって、佐々木さん?」
「なんで僕が佐々木さんに告白するの?」
「なんでって…好きじゃん佐々木さんのこと」
「…!!」
悠人は本当に驚いているようで、持っていた小説をドラマように地面に落とした。遂に、僕が気になっていた表情が見れるかもしれない。
「あーもう、ダメじゃんここ砂付くよ」
僕が拾い上げると、悠人は眉間に皺を寄せて固まっていた。
「僕って、佐々木さんのこと好きなの?」
「…あれ違うの?最近の悠人見てて、そうかなって思ったんだけど」
「最近の僕、何してた?」
「んー、佐々木さんが席立つと目で追ってたり、他のクラスの子が佐々木さん呼びに来ると反応してたり、あとはー、比較的読みやすい小説持ってきてたり?悠人にしては分厚さが足りないなーみたいな」
悠人は口に手を当てる。
ほら、ドラマみたいな反応で面白い。
「…無意識だ。言われてみると確かに、そうしてたかも」
「無意識って…もうそれ本能で好きってことじゃん」
「そうか、これが好きなのか」
やっと自認したからか、悠人の顔がどんどん赤くなっていく。恥ずかしそうな、始めてみる顔だった。
「なんかきっかけとかあんの?まあ、今好きって気づいた訳だし、ないか」
「あー、うーん、思い当たるのはある」
悠人は意外にも、スラスラ話を続ける。
「佐々木さんの、癖に気づいた瞬間があって」
「癖?」
「うん。佐々木さんって集中する時に、こう、髪を耳にかけるんだよ」
「ほう…」
「決まって右側をかけるんだけど、その時に見える耳のホクロが、なんか可愛らしくって…って、引いてない?!」
「いや…思ったより佐々木さんのこと見てんだなって思って」
「まあ、うん。その癖に気づいた時点で、好きだったのかも」
「だな、結構キモめでいいじゃん」
「え、やっぱり引いてるんじゃん!」
「いーや?褒めてんだって!」
「うそだーー」
僕が先を歩き始めると、悠人はパタパタと駆け足でついてきた。
何だそうか、悠人もちゃんとした年頃の高校生じゃん。僕が勝手に決めつけていただけで、本能で好きな子を見つめてしまうくらい、その子の些細な癖を見つけてしまうくらい、普通の男子高校生だった。
それと、悠人の照れた顔も見れたし、僕は友達として心底嬉しくなった。
教室では今日も、佐々木さんが悠人を見ている。
そして悠人もまた、無意識みたいな顔で彼女を目で追っている。
分厚い本を読んでいる振りをしている悠人を見ると、僕は嬉しくて。口を手で覆いながら、机一個分空いた、二人の距離をもどかしく思った。
授業中、板書をするためにほとんどの生徒が前を向いている中、彼女は妙に右側を気にしているようで。僕はそれに気づいてから、彼女の視線の先が気になるようになった。
彼女の名前は佐々木詩乃。大人数で連むのが苦手そうな、大人しい女の子。そんな彼女の視線の先にいつもいるのは、古賀悠人だ。僕にとってこのクラスになって初めてできた友達で、彼も彼女と同様、一人で居ることを好む大人しい性格。
彼女はいつも右隣の席の悠人の事を気にしている。
英語の授業で突然当てられた悠人を心配して、答えを小さな声で囁いたり、昼休みに小説に夢中になっている悠人に、何度も話しかけようとしては行動出来ずにいる姿をよく見るから、彼女は悠人のことが好きなんだと思う。
それと、その気持ちにこのクラスの大半は気がついている。誰もその事を特に彼女本人や、悠人に告げ口はしない。そっと見守っていきたいと思わせる、彼女の人柄がそうさせているんだと思う。
「悠人さ、好きな子いる?」
「…え?どうしたの急に」
「いやー、そういう話したことなかったなーって」
「あぁ…うーん、僕あまりそういうの分からなくて」
「だよな〜悠人はそうだよな」
「うん?」
「いや、別に何も無いんだけどさ気になったから聞いただけ」
「ふーん」
放課後、悠人の家でおすすめの小説を読ませてもらっている時に、僕らはそんな会話をした。僕は悠人から恋愛の話を聞いたことがない。
男子高校生は特に年頃だからか、元カノの話や他人の経験の話で盛り上がったりするのに、悠人からは一切その手の話は出てこない。
それでも悠人はいつも幸せそうな顔をしている。小説が好きで、毎日色んな世界へ没入しているからか、恋愛を語っているクラスメイトよりも充実してそう。
僕は、そんな所が友達として好きだ。類を見ないから話してみたいと思ったし、実際会話をしていても面白い。悠人と友達になるまで小説とは無縁だったのに、今ではオススメを紹介出来るくらい、好きな作家も出来た。
でもほんの少しだけ、友達として気がかりでもある。だって、普通の男子高校生が女子に全く興味がないなんて、そんな話聞いたことがない。
所謂、「陰キャ」と呼ばれる男子生徒だって、話を聞くと彼女がいたり、元カノがいたりする。反対に、馬鹿なことばっかりしている「陽キャ」も、友達といるのが最高に楽しいって顔をしときながら、やることやってたりするし。
この先悠人も大人になって、ゆっくり恋愛を知っていくんだろうけれど、この高校生という多感な時期に色恋が全くないというのは、将来後悔してもおかしくないと思う。
かなりお節介だと言うことは気づいているけれど、きっと僕は、その手の話を悠人がしたらどんな顔をするのか、見てみたいと思ってしまっている。
体育の時間、男子がソフトボールをしている中、女子は隣でサッカーをしていて、珍しくグラウンドを一緒に使っていた。
ふと、悠人を見ると、何かを見てフッと吹き出して笑っている。悠人の視線の先を辿ると、そこには佐々木詩乃の姿があった。サッカーボールの扱いがとんでもなく下手くそで、リフティングを練習しているみたいだが、全く出来ていない。あまりの下手さに、僕も釣られて笑ってしまった。
「いや、下手すぎだろあれ」
「ん?だね、さっきも蹴るの空振ってて、面白かった」
「お、悠人、佐々木さんのことずっと見てたの?」
少し茶化すつもりで軽く言った言葉なのに、悠人は照れた表情を見せた。
「み、見てないよ?なんか最近、すぐ佐々木さんの事見つけちゃうだけ」
「悠人、それって…」
「はーい!お前ら集まれ〜」
踏み込んだことを聞こうとした時、先生からの集合の合図で会話が途切れてしまった。
でも、僕は今の悠人の一言で確信した。悠人は、恋愛をしないとか興味が無いとかではなくて、ただ気づいてないだけだ。それにきっと、彼女の視線も自分と同じだということを気づいていない。
それからは、悠人と彼女の視線のすれ違いに、僕だけが気がつくようになった。友達としてはなんともむず痒く、お互いが見つめているタイミングを教えてあげたいくらいだった。
「告白、しないの?」
「ん?告白?!」
唐突にそう聞くと、悠人は驚いた表情で僕を見つめた。
「僕が?だれに?」
「誰にって、佐々木さん?」
「なんで僕が佐々木さんに告白するの?」
「なんでって…好きじゃん佐々木さんのこと」
「…!!」
悠人は本当に驚いているようで、持っていた小説をドラマように地面に落とした。遂に、僕が気になっていた表情が見れるかもしれない。
「あーもう、ダメじゃんここ砂付くよ」
僕が拾い上げると、悠人は眉間に皺を寄せて固まっていた。
「僕って、佐々木さんのこと好きなの?」
「…あれ違うの?最近の悠人見てて、そうかなって思ったんだけど」
「最近の僕、何してた?」
「んー、佐々木さんが席立つと目で追ってたり、他のクラスの子が佐々木さん呼びに来ると反応してたり、あとはー、比較的読みやすい小説持ってきてたり?悠人にしては分厚さが足りないなーみたいな」
悠人は口に手を当てる。
ほら、ドラマみたいな反応で面白い。
「…無意識だ。言われてみると確かに、そうしてたかも」
「無意識って…もうそれ本能で好きってことじゃん」
「そうか、これが好きなのか」
やっと自認したからか、悠人の顔がどんどん赤くなっていく。恥ずかしそうな、始めてみる顔だった。
「なんかきっかけとかあんの?まあ、今好きって気づいた訳だし、ないか」
「あー、うーん、思い当たるのはある」
悠人は意外にも、スラスラ話を続ける。
「佐々木さんの、癖に気づいた瞬間があって」
「癖?」
「うん。佐々木さんって集中する時に、こう、髪を耳にかけるんだよ」
「ほう…」
「決まって右側をかけるんだけど、その時に見える耳のホクロが、なんか可愛らしくって…って、引いてない?!」
「いや…思ったより佐々木さんのこと見てんだなって思って」
「まあ、うん。その癖に気づいた時点で、好きだったのかも」
「だな、結構キモめでいいじゃん」
「え、やっぱり引いてるんじゃん!」
「いーや?褒めてんだって!」
「うそだーー」
僕が先を歩き始めると、悠人はパタパタと駆け足でついてきた。
何だそうか、悠人もちゃんとした年頃の高校生じゃん。僕が勝手に決めつけていただけで、本能で好きな子を見つめてしまうくらい、その子の些細な癖を見つけてしまうくらい、普通の男子高校生だった。
それと、悠人の照れた顔も見れたし、僕は友達として心底嬉しくなった。
教室では今日も、佐々木さんが悠人を見ている。
そして悠人もまた、無意識みたいな顔で彼女を目で追っている。
分厚い本を読んでいる振りをしている悠人を見ると、僕は嬉しくて。口を手で覆いながら、机一個分空いた、二人の距離をもどかしく思った。



