日向さんから聞いた、仕事の話と、死後の話。
胃が重い。山盛りポテトフライでも、酒の飲み過ぎのせいでもない。
荷が、重い。
明らかに意気消沈している僕を励ますように、日向さんは。
この仕事で、死ぬことになっている日向さんは、
「おっ、よっ、きた来たキタ。来ましたよ。トリの降臨。とり釜飯ー。ほらほら、よそってあげよう」
と、飲んでもないのに、上機嫌な装い。
僕も精一杯、元気を装った。
三月
Nヶ崎の辛草半島から、日向さんの運転する小型船に乗って、僕は鄙島に向かっていた。
「船酔い。大丈夫? 福山君?」
「大丈夫ですよ、吐き気は、ずっとありますけれど、これは、船酔いじゃないです」
「そう? 帰りは大丈夫? ちゃんとボート運転できる?」
「もう、何度も運転してますから、大丈夫でしょう。それに僕が仕事を成し遂げたか、確認に来るんでしょ? 島に。『外の人』が、」
「『雛人形』が、きちんと。片づけられたか、ね」
「ひゅっ。日向さんはっ。それで、それで良いんですか!」
「雛人形ってさ、三人官女や五人囃子。最悪、お内裏様が居なくたってさ。『お雛様』。が居れば、『雛人形』なのさ」
「……それが。生きるということですか?」
「それが、生きるということさ。福山」
「言い切りますね」
「いいや繋がりさ」
船体が軽くホップして、一瞬ふわと、体が浮く。船のスピードが緩く、緩く。僕の体は、徐々に重く重く。
「ほら。もう、着くぞ。鄙島だ」
小さな小さな島なのに。
立派な棚田と、段々畑が何段もある鄙島。
九月の夏休みの時に来た時と違い、今は、冬の色をしていた。
波止場には、島の子供達が来ていた。
夏には、気がつかなかった。
離島であるのに、多すぎる子供達。
「「「「そーにー。ふくしゃー」」」」
子供のうち、一人の男の子が、まだ、停止しきっていない、船に飛び乗ってくる。
船体が大きく傾き、船の左の頭か桟橋にぶつかる。
「こらっ、与一。あぶねーだろーが」
「ごめんよ、そーにー。なあなあ、ふくしゃー。あそぼあそぼあそぼ」
「いや、僕は仕事があるから。ねえ、日向さん。っあっ。いや。どうしようかな」
「行ってやれよ、ふくしゃ。途中までの段取りは、こっちですましておくよ」
「やった、そーにー。ふくしゃ。こっちこっち」
遊びをせんとや生まれけむ。戯れせんとや生まれけん。
遊ぶ子供の声聞けば、我が身さへこそ揺がるれ。
揺れる船。甲板から、僕は飛び降りた。
「何して、遊ぶんだ? 与一」
僕は知っているのに、そう聞く。
「「「「かごめかごめ」」」」
初めて島に来たとき。
自己紹介のレクリエーションの一種だと思った。
でも、その次に島に来たときも、その次に島に来たときも。
夏休みのまだ、暑い夏の日にも。
彼らは、遊ぶ。
かごめかごめを。
『お雛様』ができる、数少ない遊びだから。
「「「「かーごめかごめ。かーごの中のとーりーはー、いーついーつでーやあるー。後ろの正面、だーあれー」」」」
「うーん、誰だろうなー。与一じゃないな、大きい影を感じない。えっ? ずるなんかしてないさ。感じるんだ。三咲ちゃん、違うな、左の方から、くすくす笑いが聞こえたぞ。美七ちゃんと、二葉ちゃんと笑ってるでしょ。
うーん分からないなあ。ちょっと飛んでみてくれよ。うん、やっぱり大きいぞ。雄一郎。八夏。岸二。いや、彦六も、うんと背伸びてたからな。えー、」
僕は鬼。目を隠す鬼。



