長い、長い、タイムアウトのサイン。
よくよく。良く考えろ、ということ。
日向さんが動く。
タイムアウトのサインの後、右手で髪を掻き上げ、人差し指で頭をくるくる。
右手を一瞬握って、直後に手の平を、パー。
Vサイン。
パー。
そのまま、太腿をさする。
「面倒くさいなー。酔っ払いが面倒くさいのはまだ、ギリギリ、許せるけれど。素面の人がこんなにも面倒くさいのは、やだなー。タイムでもなく? まだれ、でもなく? ああ、ルートっ? 串。36。ルートとって6? 二度漬け禁止のタレを三度漬けのバカタレ。部位は、いつもの、もも。はー、普通に口で言えば良いものを。じゃあ、もも串、タレ多め多めの6本で。えっ、Vサイン。上下、上下。ライス? サイズは? うわっ、投げキッスなんてやめてくださいよ。気持ち悪い。中ですね。えっ? 喉をさすって? 喉乾いたんです? 飲み物はもう頼みましたけど。違う。喉じゃない。食道? 胃の上。以上?」
一通りのハンドサインで、面倒サイン。
そして、仕事の危険度サインを読み解く。
非常に面倒で危険で、無理難題が山積み。
「あっ、山盛りポテトフライも頼みますね。今度は、お腹をさすって。胃もたれするって? 大丈夫ですよ。日向さんと違って、僕はまだ若いですし、」
そう、僕はまだ若い。つまりは、まだ、先が長い。
ただ、普通に生きていくだけなら、全く受ける必要のない仕事だ。
けれど、僕は普通には生きられない。
息苦しい。ただ生きることが。
苦しい。
つまりは、つまらない。
ただ流れていくことを、良し、としない。
僕は考える葦である。
腿に肘を突き、頬杖をつき、考える。
考える。
生きるは地獄。生きるは地獄。
死ぬことは、僕は考えない。
地獄の門を押して叩いて、推敲して。
迷う。選択に迷うということは。いや生きることは、迷うことだ。迷うこと、決められないことを肯定する。
「うーん、タレも捨てがたいが、塩もいいよなー。串3種盛りを塩、串6種盛りをタレで、あー、でもなー、タレだとビールじゃなくて、ハイボールがいいなー。すいません、日向さん、テーブル幅とりますけど、良いっすか?」
日向さんは、もう、何も言わない、ただ、僕をまっすぐ見つめている。
「じゃっ、ハイボールも追加でと、あんまり、一度に頼んでも、料理冷めちゃいますもんね、後で、焼酎ロックと、野菜串でいやー、たまりませんなー。今頼んだやつ、半分くらい食べたら、釜飯も頼んどかないとですねー。あれ、時間かかりますから」
ふーーーっと、深く息を吐く。
短く息を吸い、ふっとまた、短く息を吐く。
「それじゃ、注文しますね」
震える。指先。『ご注文』の赤いパネルを。
僕はワンタップ。
『ご注文をお受けしました』
極めて、冷たい、電子の声。
ずずずっと、日向さんは、ジョッキの底に残ったホイップクリームを啜る。
ジョッキをテーブルの端に寄せ、両肘をついて、祈るように手を合わせる。
顎を親指に、鼻を人差し指の横腹に、目を瞑り、瞑り、瞑り。
しば、精神を統一させ、ぽつり、
「福山君。それじゃあ、お仕事の話をさせてもらうね。鄙島。君が何度も、仕事で訪れたあの島だ。あの島の、
『ご注文をお持ちしました』
まだ、喋ってる途中でしょうが!」
よくよく。良く考えろ、ということ。
日向さんが動く。
タイムアウトのサインの後、右手で髪を掻き上げ、人差し指で頭をくるくる。
右手を一瞬握って、直後に手の平を、パー。
Vサイン。
パー。
そのまま、太腿をさする。
「面倒くさいなー。酔っ払いが面倒くさいのはまだ、ギリギリ、許せるけれど。素面の人がこんなにも面倒くさいのは、やだなー。タイムでもなく? まだれ、でもなく? ああ、ルートっ? 串。36。ルートとって6? 二度漬け禁止のタレを三度漬けのバカタレ。部位は、いつもの、もも。はー、普通に口で言えば良いものを。じゃあ、もも串、タレ多め多めの6本で。えっ、Vサイン。上下、上下。ライス? サイズは? うわっ、投げキッスなんてやめてくださいよ。気持ち悪い。中ですね。えっ? 喉をさすって? 喉乾いたんです? 飲み物はもう頼みましたけど。違う。喉じゃない。食道? 胃の上。以上?」
一通りのハンドサインで、面倒サイン。
そして、仕事の危険度サインを読み解く。
非常に面倒で危険で、無理難題が山積み。
「あっ、山盛りポテトフライも頼みますね。今度は、お腹をさすって。胃もたれするって? 大丈夫ですよ。日向さんと違って、僕はまだ若いですし、」
そう、僕はまだ若い。つまりは、まだ、先が長い。
ただ、普通に生きていくだけなら、全く受ける必要のない仕事だ。
けれど、僕は普通には生きられない。
息苦しい。ただ生きることが。
苦しい。
つまりは、つまらない。
ただ流れていくことを、良し、としない。
僕は考える葦である。
腿に肘を突き、頬杖をつき、考える。
考える。
生きるは地獄。生きるは地獄。
死ぬことは、僕は考えない。
地獄の門を押して叩いて、推敲して。
迷う。選択に迷うということは。いや生きることは、迷うことだ。迷うこと、決められないことを肯定する。
「うーん、タレも捨てがたいが、塩もいいよなー。串3種盛りを塩、串6種盛りをタレで、あー、でもなー、タレだとビールじゃなくて、ハイボールがいいなー。すいません、日向さん、テーブル幅とりますけど、良いっすか?」
日向さんは、もう、何も言わない、ただ、僕をまっすぐ見つめている。
「じゃっ、ハイボールも追加でと、あんまり、一度に頼んでも、料理冷めちゃいますもんね、後で、焼酎ロックと、野菜串でいやー、たまりませんなー。今頼んだやつ、半分くらい食べたら、釜飯も頼んどかないとですねー。あれ、時間かかりますから」
ふーーーっと、深く息を吐く。
短く息を吸い、ふっとまた、短く息を吐く。
「それじゃ、注文しますね」
震える。指先。『ご注文』の赤いパネルを。
僕はワンタップ。
『ご注文をお受けしました』
極めて、冷たい、電子の声。
ずずずっと、日向さんは、ジョッキの底に残ったホイップクリームを啜る。
ジョッキをテーブルの端に寄せ、両肘をついて、祈るように手を合わせる。
顎を親指に、鼻を人差し指の横腹に、目を瞑り、瞑り、瞑り。
しば、精神を統一させ、ぽつり、
「福山君。それじゃあ、お仕事の話をさせてもらうね。鄙島。君が何度も、仕事で訪れたあの島だ。あの島の、
『ご注文をお持ちしました』
まだ、喋ってる途中でしょうが!」



