アフタージャーニー

「どうするって……まぁ。無職はまずいし。昔世話になったダンススクールで、講師やらないかって誘われてる」

「そう。セカンドキャリアとしては、悪くないんじゃないか」 

「……俺は兄貴が羨ましいよ」

 それだけ答えると、俺はバーの出入り口へ向かった。

 俺たち兄弟は、追いかけた夢も、叶えたかった夢も、何もかも違う。
 それでも俺は、今も限りなく夢の近くで、音楽を人生の一部にしている蒼樹が眩しかった。

 彼のようには、なれそうにないから。
 なりたいかどうかも、今の俺にはわからないが。
 
 手をかけた、鈍く光る真鍮のドアノブが冷たい。
 そのまま力をこめて、重い扉を開けようとした時、背後から蒼樹の声が聞こえた。

「あぁ、それから。帰国のこと、伝えたのか?」

「……伝えたよ。誰よりも先に」

 既読になるのは、誰よりも遅かったけれど。
 俺は振り返ることなく、夕闇が迫る扉の外へ出た。