アフタージャーニー

 Tokyo, 9:00PM

 全面鏡の前に立ち、生徒たちを指導していた時のこと。
 踊り終わって、前を見据えた瞬間──鏡越しに映る、ガラス張りの扉のところに誰かいることに気づいた。
 
「……なんでいるんだよ」

 思わず振り返って、漏れた声は少し硬かった。
 珠生はガラスの向こうで、少し目を見開いたまま、こちらを見ていた。
 
 何事かと興味津々の生徒たちを嗜め、レッスンを終わらせた。着替えて外に出ると、街灯の下で珠生がポツンと立っていた。底冷えの中、これ以上ここで待たせるわけにもいかず、俺は近寄ると声をかけた。

「なんで、来たんだよ」
「……見に来たの」

 そっけない問いに、返って来たのは短い返事。

「ここにずっといても、冷えるだけ」
「あの……川のほう行かない?」

「ここからだと、歩くけど」
「うん。別にいいよ」

 俺の言葉に、コクリと頷く珠生と目が合った。どこか嬉しそうな彼女のペースに流されてしまいそうになって、俺はフイっと目を逸らすと、歩き出した。

 ここは、蒼樹や珠生が住む街より、隅田川を挟んで少し上流にある。川沿いに公園があったから、そこへ行けばいい。大通りはまだ、店の灯りも車のライトも残っていて、テールランプが冬の街を押し流すように先へ先へと動いていく。

 川に近づくにつれ、その明るさは少しずつひらけた空気の中へほどけていくようだった。今夜は風がほとんどない。それでも足元は十分に冷たくて、コンビニに立ち寄ると、ホットドリンクを買った。

 ひとつを珠生に手渡すと「ありがとう」と小さな声が聞こえた。

「で。着いたけど」
「わぁ、橋がライトアップされてる! 綺麗だねぇ」 

 川沿いの公園へ着き、遊歩道まで出ると、ここまでほとんど何も言わなかった珠生が、物珍しそうに周囲を見渡す。青と白にライトアップされた近くの橋は、夜だというのに眩しいほどに明るくて、俺は思わず目を細めた。

「思ったより明るいな……」

 青い光が反射した水面が、微かに揺れる。冬の澄んだ空気の中、輪郭がくっきりと浮かび上がるタワーマンションやビル群から漏れる窓灯かりが、夜空に浮かぶ星の代わりに輝いていた。

 柵から身を乗り出し、景色を眺めていた珠生がこちらを振り返った。