アフタージャーニー

 シンプルな黒いTシャツ。
 ステップを踏むたび、ふわりと舞う髪は少し乱れ、額にはうっすらと汗が光る。

 時おり生徒のところに歩いて行っては、誰かの腕の角度を直し、真剣な顔で振りの確認をする。
 すぐに柔らかい笑顔を浮かべて「そう、それでいいよ」と声をかける。

 ここは、ステージじゃない。
 派手な照明も、ファンの声援もない。
 ただ、鏡に映る侑樹は、踊ることが当たり前のように、そこにいた。

 ダンスが、人生の一部だった人。

 夢が終わったあと、どう生きていけばいいかわからないなんて、嘘だ。
 夢が終わっても、手放さなかったものを、静かに誰かに渡し続けている。

 その重みを優しさに変える彼が、どうしようもなく愛おしくて。
 胸の奥からその気持ちが溢れていく。

「侑樹」

 名前を小さく呟いたその瞬間、踊り終えた侑樹がこちらに気づいた。
 
 遠くの鏡越しに目が合って──彼が固まる。 
 こちらを振り返った彼は、大きく目を見開き、驚きと戸惑いと、少しの苛立ちが混じっているように見えた。

「……なんでいるんだよ」