仕事を終えて、足が向いたのは蒼樹さんのバーだった。
冬の夜の路地裏は、歩いているだけで地面の底から冷えが伝わってくる。
淡いオレンジが浮かび上がる看板を見つけ、暖を求め足が自然と早まった。
重い扉を開けると、暖かい空気が冷えた身体をあっという間に包む。
コートを脱ぎ、いつものカウンター席に座って注文する頃には、寒さを忘れ、心地よさに身を委ねかけていた。
「こんばんは。珠生ちゃん、いらっしゃい」
「今夜は賑やかですね……あっ、いつものおまかせで。温かいものを」
薄暗い店内に流れるジャズに混じって、今日はあちこちからグラスを重ねる音や談笑が聞こえてくる。蒼樹さんともうひとりのバーテンダーは、笑顔は絶やさないまま、テキパキと動き回っている。
蒼樹さんとようやく話せたのは、おまかせで作ってもらったカクテルをカウンター越しに差し出してくれた時のこと。
「お待たせしました。どうぞ」
「わぁ、チョコレート系? おいしい……沁みる」
ホットチョコレートがベースのそれは、口当たりが滑らかで、ゆっくりとアルコールが広がっていく。変わらない蒼樹さんの優しさに、心まで温かくなった。
「久しぶりだね。最近は仕事、どう?」
「なんとか。前までは完璧にやらなきゃって思ってたけど、今は……少しだけ肩の力が抜けてきました」
「そう。いいことなんじゃない?」
私の言葉に、蒼樹さんは優しく微笑む。その笑顔はどこか──やっぱり、侑樹に似ていて。見ていたら、胸の奥に押し込んでいたものがジワジワと溢れ出して、止まらなくなりそうだった。
「蒼樹さん。あのっ……私、侑樹に避けられちゃった。たくさん、迷惑かけたから……」
彼を前にすると、言葉が意外なほど簡単に出てしまった。
「もう十分、って言われて……私なんていらない、迷惑だって意味ですよね? よかれと思ったこと、全部空回っちゃったから。顔も見たくなくて、部屋、出ていったのかな」
冬の夜の路地裏は、歩いているだけで地面の底から冷えが伝わってくる。
淡いオレンジが浮かび上がる看板を見つけ、暖を求め足が自然と早まった。
重い扉を開けると、暖かい空気が冷えた身体をあっという間に包む。
コートを脱ぎ、いつものカウンター席に座って注文する頃には、寒さを忘れ、心地よさに身を委ねかけていた。
「こんばんは。珠生ちゃん、いらっしゃい」
「今夜は賑やかですね……あっ、いつものおまかせで。温かいものを」
薄暗い店内に流れるジャズに混じって、今日はあちこちからグラスを重ねる音や談笑が聞こえてくる。蒼樹さんともうひとりのバーテンダーは、笑顔は絶やさないまま、テキパキと動き回っている。
蒼樹さんとようやく話せたのは、おまかせで作ってもらったカクテルをカウンター越しに差し出してくれた時のこと。
「お待たせしました。どうぞ」
「わぁ、チョコレート系? おいしい……沁みる」
ホットチョコレートがベースのそれは、口当たりが滑らかで、ゆっくりとアルコールが広がっていく。変わらない蒼樹さんの優しさに、心まで温かくなった。
「久しぶりだね。最近は仕事、どう?」
「なんとか。前までは完璧にやらなきゃって思ってたけど、今は……少しだけ肩の力が抜けてきました」
「そう。いいことなんじゃない?」
私の言葉に、蒼樹さんは優しく微笑む。その笑顔はどこか──やっぱり、侑樹に似ていて。見ていたら、胸の奥に押し込んでいたものがジワジワと溢れ出して、止まらなくなりそうだった。
「蒼樹さん。あのっ……私、侑樹に避けられちゃった。たくさん、迷惑かけたから……」
彼を前にすると、言葉が意外なほど簡単に出てしまった。
「もう十分、って言われて……私なんていらない、迷惑だって意味ですよね? よかれと思ったこと、全部空回っちゃったから。顔も見たくなくて、部屋、出ていったのかな」

