アフタージャーニー

[Side 侑樹]

 冷えたコンクリートと路地を通り抜ける乾いた風が、冬がそこまで来ていることを知らせてくれる、夜の帰り道。

 ダンススクールのレッスンを終え、そこから目と鼻の先にある実家に荷物を置きに行って、最寄駅に戻ってきた頃には、もう遅い時間だった。人の気配はあまりなく、遠い車の音さえ、音というより時間の流れの名残りのように感じる。

 立ち寄ったコンビニを出て、マンションへ向かう途中で、珠生らしき後ろ姿を見た。

「珠……いや、ダメだ」

 手を伸ばしても届かない声に、己を戒めるようにゆっくり首を横に振った。

 帰る方向は同じなのに、遠くなっていく彼女の後ろ姿は、肩が落ちていて、足取りも重い。いつもより、ずっと遅い時間だ。

 最近、夜中に聞こえる物音が増えた。
 扉の開閉音に、壁越しに聞こえる生活音。

 ユニセックスラインのローンチで奔走しているんだと思っていた。そしてそれが数日前、炎上したこともすぐに耳に入ったから、後ろ姿を見て、それが彼女を蝕んでいるのだろうと確信した。

 スマホを開けば、俺の過去も晒されている。
 無名の元韓国アイドル、売名──コメントのひとつひとつを、淡々と追った。
  
『星って明るさがあるじゃん、一等星とか二等星とかさ。それで言ったら俺は、肉眼じゃほぼ見えないぐらいの薄暗い星だった』

 誰にも見えなかった星は、ひっそりと消えていったはずだった。けれど、星だった過去は消えない。燃え尽きた灰も、誰かの手によって、晒され吹き飛ばされると嫌でも思い知らされる。

 もし俺がもっと眩い星だったなら、仕事で関わったブランドの評判など、問答無用で覆せたのかもしれない。マーケティングとは、そういうものだ。

 俺が関わったって、ロクなことがない。
 悠愛の時もそうだった。
 
「今度は、珠生かよ……」

 これ以上、迷惑をかけたくない。

 いずれは出ていくつもりで、居候していただけだ。
 いっそ今すぐ、あの部屋から出ていったほうがいい。