アフタージャーニー

 誰もいない会議室で、ふと窓の外を見ると、街は午後の光が長く伸びていた。
 どこか白く薄く、季節が冬へ傾いていくのを感じる。

『みんな、ローンチお疲れさま!』
 
 終業後にここで、先輩たちと乾杯したのは、ほんの数日前のこと。

 ここ一ヶ月は、店頭とオンラインの発売日に一枚でも多く届けようと、プロジェクトのメンバー全員が奔走した。特に生産管理の責任者である先輩は、国内の取引先へ海外の工場へ、オフィスでほとんど見かけないぐらい飛び回っていた。

 先輩が「まずは一山越えたね」と、珍しく肩の力を抜いて笑っていたのを、覚えている。

 予約は順調だったし、店頭での反応もよかった。
 最低限の枚数を発売日に確保し、その後は納期を十分に確保したオンライン二次予約へ切り替えた。

 ……それが、崩れた。 

『お店とオンラインで同じものを買ったのに、品質が全然違う』

 誰かがSNSへ投稿した写真が、あっという間に広がった。
 シャツの縫製の甘さ、生地の質感のわずかな差、そこから来るサイズの違和感。

 コメント欄は、すぐに埋め尽くされた。

 当初の納期に間に合った最小限のロットは、コラボと店頭に回された。遅れてから、先輩が海外に飛んでギリギリで揃えた分が、オンラインに回された──その品質にばらつきがあった。

 投稿写真に、AIを駆使した本物と見分けのつかない画像まで混ざり始め、SNSを引っ掻き回す。注意喚起すら扇動を加速させる要因になって……オンライン二次予約のキャンセルの問い合わせが止まらない。

 会議室に、急遽呼び出されたプロジェクトのメンバーが続々と集まってきた。
 重く沈んだ空気の中、ディレクターが口を開く。

「みんなこの道のプロなんやから、一から十まで細かいこと言う気はないねん。ただ、立ち上げの重要さ、わかってるやろ?」

 感情を抑え、淡々と事実を語る姿に、誰も何も言えなかった。
 
「売上、下方修正になります」
「次の春夏ラインも品番を絞って、縮小生産の方向で」

 その後も、ネガティブな報告が続く。
 誰も声を荒げず、ため息が漏れるだけ。ただ、受け止めるしかなかった。

 机の下で握りしめた拳に力がこもる。上手く息ができなくて、呼吸が浅くなる。何か言わなきゃ、と焦るばかりで、言葉がついてこない。

 隣に座っている先輩が、椅子を引いて立ち上がり、静かに頭を下げた。

「いくつかの局面において、生産管理の責任者である私の判断が遅れたのが一番の原因です。申し訳ございませんでした。先ほどディレクターとも話しまして、このプロジェクトから外れます」

 先輩の言葉に、頭の中が真っ白になった。