アフタージャーニー

 滑稽すぎる悪あがきに、渇いた笑いが喉の奥で潰れた。

 ベッドから立ち上がると、数足先にある、机の上に置いてあった香水瓶に手を伸ばした。

 キャップを開けスプレーを押すと、空気の抜ける音だけがした。
 ……もう、一滴も残っていない。
 指先にわずかに残った甘い気配が、すぐに溶けて消えた。

 窓を開けベランダに出ると、乾いた風が身体を通り抜ける。部屋の中にいた時は曖昧だった体温の輪郭が、あっという間に晒されてゆく。手すりに触れた指先に、金属の冷たさが遅れて伝わってきた。

 視線がベランダ越しに隣の部屋へ動く。
 開けっぱなしのカーテン。
 部屋の中は、誰もいない。

「これ以上、珠生に甘えてどうする」

 呟いた声は、風に流されて消えた。
 俺は部屋に戻り、ゆっくりと斜光カーテンを引く。

 光が遮られ、部屋が急速に彩度を失う。
 昼間なのに薄暗くなった部屋で、俺は大きく息を吐いた。

 それから、ベッドの上に無造作に置かれていたジャケットを手に取ると、部屋を後にした。

 ただ、前に進むしかない。
 ローンチパーティーへ向かう足取りは、重くも軽くもなかった。