アフタージャーニー

[Side 侑樹]

 秋の午後の柔らかい日差しが、窓から部屋に差し込む。フローリングの床を照らし、ローテーブルの脚が影になって、青灰色に伸びていた。

 明るいのに、影のあるところはひんやりとした静けさを保っている。
 その静かな調和を崩す、俺の声が部屋に響き渡る。

『今夜のローンチパーティーですが、集合場所が会場から変更に……』
「隣のビルの……はい、そこでヘアメイクも? わかりました」

『芹沢は本日、別件でオフィスに残りますので不在でして。ビルの玄関で別のスタッフが……』
「承知しました。では後ほど……失礼します」

 Dittoのスタッフからの連絡だった。スマホ越しでもわかる、背後でどこか忙しなく動き回る人の気配。慌ただしく用件を伝えられ、すぐに終わった。

 スマホの通話終了の画面をぼんやり見ていると、耳の奥で珠生の声が蘇る。

『それって──献身じゃないよ』

 あの夜以来、一度も顔を合わせていない。
 珠生の言葉は、今も剥き出しの心に痛々しく刺さったまま。

 ベッドに座り、目を閉じた。

 無邪気に笑っていたハルアは、もういない。
 思い出すのはいつも、事故のあとの痛々しい表情ばかり。
 その先に待っていた、歪んだ関係。

 ただ「俺が壊したもの」をずっと抱え続けていれば、いつか救われるに違いない──胸の奥で渦巻く独りよがりの焦燥が、いつしかアンバランスな執着に変わった。

 それを暴かれて、行き場を失った感情が、胸の奥で爆発しそうなほど膨れ上がった。

 でも、同時に思い出されるのは、別のもの。

「顔は放っておいてって言ってない」と言った、珠生の声。
 触れ合った時の、温かかったぬくもり。
 俺を見ている時の、包み込むような優しい瞳。 

 だから怖い。

 夢の終わりの先をまだ見つけられていない、剥き出しの俺を珠生は見ていた。
 その瞳がいつか熱を失い、失望に変わるのが──怖い。

 俺の罪悪感を救おうとした珠生の優しさを、都合よく使っているだけだ。
 流されたのは珠生じゃなく、つけ込んだ俺だ。

「……ヤリ逃げとか、クズすぎるだろ」