アフタージャーニー

 夜の大通りの光は、今夜も眩しい。
 信号も、車のライトも、ガラスに跳ね返るネオンの色も、それぞれ誰かを先へと繋ぎ運んでいく。

 私はその光を背中に残し、路地へ入った。少し先の雑居ビルにあるバーの看板がぼんやりと灯っているのを見て、ホッとした。

「よかった、もうオープンしてる時間で」

 今日という日の終わりを、ひとりで引き受けたくなかった。ここなら、ゆっくり呼吸ができる気がして、私は扉に手をかけた。

「あれ、珠生ちゃん。珍しいね、早い時間に」
「今朝は早かったので、その分終わるのも早くて」

 開店したばかりの店内は、まだ静かだった。
 カウンターの向こうで、グラスを拭いていた蒼樹さんが優しく微笑む。

 席に座ると、何も聞かずに水を出してくれた。

「いつものでいいかな? いや……疲れてるみたいだから、ノンアルにしておこうか」

 その問いに、私はコクリと頷く。
 表情を見ればわかると続ける彼の優しさが胸に沁みた。

「そうそう、この前は侑樹が撮影でお世話になったみたいで。珠生ちゃん、仕事に邁進してるねぇ」
「全然ダメなんです。なにひとつ、完璧にできない……今日も」

 ため息が漏れた。
 自分のダメさ加減を思い出して、唇をキュッと噛む。

 蒼樹さんはドリンクを作る手を止め、こちらを見ると少し笑った。

「完璧、ねぇ……」

 穏やかなその声に、胸の中でつっかえていた何かが緩んだ気がした。水の入ったグラスに視線を落とせば、カランという音を立てて氷が溶けてゆく。私はそれをぼんやりと見つめたまま、口を開いた。
 
「高校の頃、ちょっとしたお節介で友達と喧嘩したんです。『いつも適当な珠生に何がわかるの、完璧じゃない人に言われたくない』って。それから疎遠になっちゃった。誰かに信頼してもらうには、完璧じゃなきゃダメなんだって、思うようになって」

 こんな昔話をしたって、仕方ないってわかっていた。けれど結局、それが今の自分に繋がっていると思うと、止められなかった。誰かに聞いてほしかった。
 
「珠生ちゃんのお節介こそ、いいところなのになぁ。侑樹だって、なんだかんだ救われてると思うよ」 

 冗談めかした声だった。でも、蒼樹さんの目は笑っていない。なんと答えればいいのか、全然わからなかった。喉が渇いて、私は差し出されたノンアルコールのカクテルを口に含む。小さく「そう、ですか」としか返せなかった。