アフタージャーニー

 歯がカタカタと震え出す。

 原因は生地の調達だった。海外の生地・資材工場からの到着が遅れている。この日程ではとうてい間に合わない。元を正せば、検討会直後の伝達ミス──私が起こした発注のズレが起点になっていた。

 発売日に向けて、振り分けなければならない数がある。STEALとのコラボ、店頭、オンライン……どこかを削れば、どこかが足りなくなる。

「せ、先輩……私にできることはありますか。あの時私が……」

 声が上擦った。きっと今、私の顔は真っ青だ。

 ラップトップの画面を睨んでいた先輩が顔を上げ、静かに私を見た。感情をギリギリのところで抑え込んだその視線が、胸にグサリと突き刺さる。

「悪いけど今、芹沢さんがどうとか言ってる余裕はないの」

 言い放った一言に、周囲の空気が一瞬で凍りついた。誰も何も言わなかった。
 私は机の上で震える拳を握りしめたまま、頷くことしかできなかった。

「話を続けます。国内の縫製工場への輸送日数が……最近の情勢考えても、どうしてもかかる」

 ひとり淡々と説明を続ける先輩に、私は恐る恐る口を開く。

「生地工場と提携している海外の縫製工場は、ダメでしょうか。そこを使えば輸送日数をカットできるかもしれないですし。品質も含めて一度検討しても……」
 
 皆が一斉にこちらを向いた。

「関係性やこれまでの付き合いもあるし。そんな簡単な話じゃないでしょ」
「今から交渉じゃ、どのみち厳しい」

 誰かが低い声で言った。
 別の誰かが小さく頷き、それに同意する。
 
 先輩はそれを肯定も否定もせず、腕組みをしたまま黙っていた。
 しばらくして、もう一度口を開く。

「考えてみる。交渉の余地があるなら」

 それだけだった。
 提案が受け入れられたのか、可能性として残されたのか、わからないままミーティングは終わった。