アフタージャーニー

 あの夜から、少し時間が経った。

 秋の乾いた風がビルの隙間から細く抜け、夜のあいだに溜まった空気を攫うと、朝の光に照らされたビルがひとつずつ輪郭を取り戻してゆく。

「朝からミーティングだし、がんばらなきゃ」

 通勤途中のコンビニで買ったカフェラテを片手に、私は足早にオフィスへ向かった。見上げた空はあまりに澄んでいて、胸の奥に残っている曖昧さまで明るみに出してしまう気がしたから、目を逸らした。

 会議室に足を踏み入れると、ピリピリとした空気が漂っていた。

 ユニセックスラインの正式公開から数日。関係者向けの展示会とローンチパーティーを控え、社内は息をつく間もない。そしていよいよオンライン予約も始まり、報告の数字が動くたび、どれが人気品番かと一喜一憂してしまう。

 早速始まった生産管理チームのミーティングで、先輩の声が重く響き渡った。

「シーズンビジュアルになった最強化品番の納期が、遅れます」
 
 その言葉に、周囲が蜂の巣をつついたような騒ぎになった。

 モニターに映し出された予約数と、大幅な納期遅れを示す赤い文字がことの重大さを物語っていた。
 テーブルの端に座っていた私ですら、その意味を理解して──ジワリと額に汗が滲む。 

 ……侑樹が撮影で着た、ユニセックスラインの普遍的なコンセプトと世界観を体現する服。

 その納期が遅れることが、ブランドイメージにどれだけ影響を及ぼすかぐらい、容易に想像がつく。モニターに続けざまに映された納品スケジュールと遅延理由に、血の気が引いてゆく。

「嘘でしょ……」