アフタージャーニー

 挑発でも自嘲でも、どっちだってよかった。ただ、この沈黙に耐えられなかった。
 その言葉に、彼女の目が大きく見開かれる。

「いいよ……でも、慰めなんかじゃない。私はただ……今、侑樹のそばにいたいだけ」

 静かな声だった。珠生の顔はどこか泣きそうに歪んでいて、ざわりと背筋が立った。空っぽの俺にそんな言葉をかける必要も、そんな顔をする理由もないのに──やめてくれ、そうじゃない。

「これ以上俺を、カッコ悪い男にさせんな……頼むから」

 やっとの思いで絞り出した拒絶の声が、力なく震えた。

「大丈夫だって、侑樹は世界で一番かっこいいから。私が保証する、ね?」

 あぁ。
 その言葉に、張り詰めていた糸が、プツリと切れる音がした。

 確かなものが欲しかった。
 無価値の連続の世界で、揺るぎないと誇れるものが。俺を信じてくれる相手が。

 気がつくと、俺は珠生に手を伸ばしていた。震える指先が彼女の頬に触れ、そのまま肩に落ちる。引き寄せたいのに力が入らなくて、すがるように腕の中に収めた。

「……この状況で煽ってんじゃねぇよ」

 珠生の耳元で囁いた言葉が掠れる。

 彼女のぬくもりが、抗おうとする心を溶かしてゆく。
 通り抜ける風だけが、冷たいままほおを撫でた。