アフタージャーニー

 小休憩に入り、気分転換に外の空気を吸いに出ようと、撮影スタジオの裏口を探した。喫煙所の先の扉から出られると聞いて、そこに続く細い通路を歩いていると、先の方から声が聞こえた。

「予定ではもっと売れてる子を使うはずだったんでしょ? モデルにしては物足りないっていうか」
「あの元韓国アイドルの子も、まぁ、ビジュはいいけど。透明感あってメイク映えするし」

「声かけちゃえば? 悠愛、アイドル好きだし、余裕で連絡先ゲットできるでしょ」
「悠愛の今カレ、売れっ子だし……わざわざ格下行く必要なくない?」

 笑い声が混じる。

 足が止まった。
 俺はとっさに壁の影に身を寄せると、引き返すべきか、戸惑いながらも声の方をもう一度見た。

「やだぁ、わたし今幸せだし。連絡先キープしたいなら誰か行けば──」 

 しまった、と思った時にはもう遅い。こちらに気づいた悠愛が、凍ったように固まった。けれどそれもほんの数秒。すぐに視線を逸らすと、話を続けるスタッフ達に体を向けた。

 息が詰まりそうだった。

 遠回しに浴びせられた言葉が、俺の現在地を炙り出していた。
 世界がゆるやかに遠のくような目眩のなか、彼女たちの嘲笑が頭の中をリフレインする。

 モデルとして求められている表現力すら、圧倒的に足りていない。
 休憩が終われば、またカメラの前に立たなければならないのに。
 
 吐き出した苦しげなため息が、床に落ちた。

 来た道を引き返そうとした時、細い通路の入り口に誰かが立っていた。
 ……珠生だった。

 会いたくなかった。見られたくなかった。