アフタージャーニー

 タイアップ撮影も順調に進み、小休憩に入った。
 
 私もスタッフ用控え室で、サンドウィッチをほおばり、レモネードで喉を潤した。でも、ゆっくりしている暇はない。先輩から「侑樹さん、どこにいるかな。あとでウチのコンテンツ用動画を一緒に撮りたくって」と尋ねられ「声かけてきますね」と、スタッフ用控え室を出た。

「うーん、どこ行ったんだろ」

 侑樹の姿が見当たらない。
 彼の控え室をノックしても応答はなく、メイクルームにもいない。

 できれば、ほんの少しでいいから、話がしたかった。

 シャッターが切られるたび、表情が静かに変わっていくのを夢中で見ていた。撮影後、モニターを見つめる横顔も真剣だった。素敵な作品になると確信したから「最後のカットもがんばって」って。言葉にしたらきっと軽くなってしまうけれど、私が感じた熱を伝えたかった。

 彼を探してスタジオの端まで来たけれど「やっぱりいないや」と、私が引き返そうとした時のこと。喫煙所に続く細い通路が見えた。壁際に誰か立っている。

「侑樹?」

 背中を壁に預け、視線を少し下げている。ここからは表情は見えないけれど、肩の力が抜けているようで、どこか力のない佇まいだった。

 さらに奥のほうにも人影が見えて、誰かが話している気配がした。悠愛さんの声も混じっていたから……きっとSTEALのPRチームだ。

 彼女たちの笑い声に混ざった、断片的な言葉。

「……予定だともっと売れてる子を」
「……まぁ、ビジュはいいけど」
「……格下行く必要なくない?」
 
 何を話しているのか、全部は聞こえない。
 ただ、耳に残るのは否定的な言葉の羅列ばかり。

 侑樹の肩が、わずかに動いた。
 次の瞬間、身を翻し、彼がこちらに戻ってくるのが見えた。

「あ、えっと……」

 私の横を通り過ぎる彼と、視線が交差した。
 張り詰めた空気の中、彼の瞳がわずかに揺れる。

 あぁ、またこの目だ。胸が苦しい。
 
 遠のいていく彼を追いかけようとしたけれど──足が動かない。
 とっさに伸ばした手は行き場を失い、何も掴めないまま。