アフタージャーニー

 安心? 何が、俺が突きつけた現実?
 悠愛の言葉に耳を疑った。彼女の腰に伸ばしたままの手が、指先が、急激に熱を失っていく。

 彼女の瞳に映る自分が「成功した姿」であることを、ただそれだけを願っていた──はずだった。

 これは愛じゃなかった。愛にしようと、気持ちをかき集めるたびに悠愛が壊していく。これじゃ足りないと身体を重ね続けても、初恋の残滓がこびりついた夢が残したのは、どこまでも深い空虚と失うことへの恐怖心だけだった。

「俺らの関係って……なんでもない。ただの都合だったんだな」

 認めたくなかった。
 言葉にしたら、何もかもが手のひらからこぼれ落ちていく気がした。

「身体の関係以外、何もなかったよね」

 俺の言葉に被せるように、悠愛はそう呟くと髪を耳にかける。笑顔を取り繕うように唇の端を上げたけれど、その視線は永遠に交わらないまま。

 ベッドから身を起こすと、俺は床に転がっていた服を手に取った。

「……帰るわ。じゃあな」
「うん、そうして」

 悠愛はベッドの端に座り直し、薄いカーディガンを羽織ると背中を向けた。その裾を握りしめる彼女が、振り返ることはない。

 重い扉を開け、彼女の部屋を後にした。
 カチャリと扉が閉まる無機質な音が、誰もいない廊下に響く。

 罪悪感と執着で繋いできた関係が、音もなく静かに、崩れ落ちていった。