夜の街は、歩いているだけでアスファルトの残り熱がスニーカーを伝って、ジワジワと身体を蝕む。悠愛のマンションに着く頃には、汗で重くなったシャツが背中に張りついていた。
玄関の扉を閉め、部屋に足を踏み入れれば、すうっと汗が引いていく。
むしろこの部屋はいつも、冷房が効きすぎていて寒いぐらいだ。
……それも、最初だけ。
誘われるがままにベッドに倒れ込めば、重なり合う肌があっという間に熱くなっていく。悠愛のひんやりとした身体が熱を帯び、白い肌がうっすらとピンク色に染まった。
「喉乾いたな、侑樹も飲む?」
「サンキュ」
ふたり並んで、ノロノロとベッドの上に起き上がった。
そのままサイドテーブルに手を伸ばした悠愛に、アイスティーが入ったグラスを渡され、俺はお礼を伝えると受け取った。「喉乾いた」と彼女も飲んでいたけれど、その視線はチラチラとサイドテーブルのスマホに向けられ、気を取られたまま。
「え、なに? 侑樹、離して。スマホ取りたいんだけど」
悠愛の腰に回した腕に、自然と力がこもった。離したら、彼女は二度とこちらを向かない気がしたから。
「なぁ。俺の話、聞いて。ずっと言いたかった……ごめん。悠愛が望むような成功できなかった」
喉の奥から絞り出した言葉の端は掠れ、あまりにも頼りなかった。
抑え込んでいたきた想いが、静かな部屋に溶けてゆく。
「なぁに、いきなり」
悠愛の身体がほんの一瞬、ビクッと揺れた。けれど次の瞬間には、何事もなかったように姿勢を正すと、隣に座る俺に視線を向け、クスクスと笑う。
「……俺はこれから、どうしたらいい? 何ができる?」
「なにって……そんなこと言われても困るし、そういうの重い」
彼女の顔から笑顔が消えた。アイスティーのグラスをサイドテーブルに置くと、俺からゆっくりと身体を離した。シーツが擦れる音がやけに響く。彼女の肩が、ほんの少しだけ強張っているように見えた。
「デビューはしたけど、それ以外なにひとつ叶わなかった。悠愛と約束したのに」
「やだぁ。約束って、もしかして昔『わたしの分まで成功して、夢を見せて』って言ったやつ? わたしはただ、侑樹を見て安心したかっただけ」
彼女は目を伏せると、静かに続けた。
「デビューした後の侑樹の惨状見たら、現実思い知るだけだった。美容の道に進んでよかった、好きなものに囲まれてる今の方がずっと幸せ。わたしの選択は間違ってなかったって、心底安心したの」
玄関の扉を閉め、部屋に足を踏み入れれば、すうっと汗が引いていく。
むしろこの部屋はいつも、冷房が効きすぎていて寒いぐらいだ。
……それも、最初だけ。
誘われるがままにベッドに倒れ込めば、重なり合う肌があっという間に熱くなっていく。悠愛のひんやりとした身体が熱を帯び、白い肌がうっすらとピンク色に染まった。
「喉乾いたな、侑樹も飲む?」
「サンキュ」
ふたり並んで、ノロノロとベッドの上に起き上がった。
そのままサイドテーブルに手を伸ばした悠愛に、アイスティーが入ったグラスを渡され、俺はお礼を伝えると受け取った。「喉乾いた」と彼女も飲んでいたけれど、その視線はチラチラとサイドテーブルのスマホに向けられ、気を取られたまま。
「え、なに? 侑樹、離して。スマホ取りたいんだけど」
悠愛の腰に回した腕に、自然と力がこもった。離したら、彼女は二度とこちらを向かない気がしたから。
「なぁ。俺の話、聞いて。ずっと言いたかった……ごめん。悠愛が望むような成功できなかった」
喉の奥から絞り出した言葉の端は掠れ、あまりにも頼りなかった。
抑え込んでいたきた想いが、静かな部屋に溶けてゆく。
「なぁに、いきなり」
悠愛の身体がほんの一瞬、ビクッと揺れた。けれど次の瞬間には、何事もなかったように姿勢を正すと、隣に座る俺に視線を向け、クスクスと笑う。
「……俺はこれから、どうしたらいい? 何ができる?」
「なにって……そんなこと言われても困るし、そういうの重い」
彼女の顔から笑顔が消えた。アイスティーのグラスをサイドテーブルに置くと、俺からゆっくりと身体を離した。シーツが擦れる音がやけに響く。彼女の肩が、ほんの少しだけ強張っているように見えた。
「デビューはしたけど、それ以外なにひとつ叶わなかった。悠愛と約束したのに」
「やだぁ。約束って、もしかして昔『わたしの分まで成功して、夢を見せて』って言ったやつ? わたしはただ、侑樹を見て安心したかっただけ」
彼女は目を伏せると、静かに続けた。
「デビューした後の侑樹の惨状見たら、現実思い知るだけだった。美容の道に進んでよかった、好きなものに囲まれてる今の方がずっと幸せ。わたしの選択は間違ってなかったって、心底安心したの」

