[Side 侑樹]
ダンススクールのレッスンが終わったのは、夜の八時半過ぎ。
生徒たちに「お疲れさま」と声をかけ、階下の受付の横にあるスタッフルームへ戻った。ロッカーから荷物を取り出すと、スマホの画面にメッセージの新着通知が表示されていた。
悠愛からだ。
『今夜来る? 会いたい』
いつもと変わらない、短いメッセージ。
返信しようと滑らせた指が、少し止まった。
あぁ、そういえば。
今日は金曜だっけ。
何も予定がなければ、気まぐれに珠生とベランダで話す日だ。今夜も彼女は「暑い」とか言いながら、出てくるかもしれない。ビールを片手に、一週間分の愚痴を溜め込んだ顔で。
「珠生、ほんとしょーもないんだよなぁ……」
この世の天国みたいな顔でビールを飲む姿を思い出し、少しだけ頬が緩んだ。
『ねぇ、返事して』
もう一度スマホに視線を戻すと、既読がついたことに気づいた悠愛から、急かされるようにまたメッセージが届く。
「今から行くよ」
ボソリと吐き出した声が床に落ちる。
俺のことを見てほしい──はじまりはきっと、一緒にダンスを始めた小学生の頃だった。
気づかなければ、ただの幼馴染でいられたのに。
淡い恋心が暴いたのは、胸の奥底に眠る薄暗い嫉妬だけだった。
悠愛の瞳が他の男を映すたび、初恋はゆるやかに終わっていった。彼女の未来を壊してしまったあの日までは。もう俺は、この感情の名前を思い出せそうで思い出せそうにない。
「……」
俺は今度こそメッセージを打ち、送信ボタンを押すと、スタッフルームを後にした。
外に出れば、夏の夜のうだるような熱気がゆっくりと息を奪っていく。
街の灯りがゆらゆら揺れ、世界の輪郭があいまいになっていく。
まるで、ひとりどこか遠い夢の続きを見ているようだった。
ダンススクールのレッスンが終わったのは、夜の八時半過ぎ。
生徒たちに「お疲れさま」と声をかけ、階下の受付の横にあるスタッフルームへ戻った。ロッカーから荷物を取り出すと、スマホの画面にメッセージの新着通知が表示されていた。
悠愛からだ。
『今夜来る? 会いたい』
いつもと変わらない、短いメッセージ。
返信しようと滑らせた指が、少し止まった。
あぁ、そういえば。
今日は金曜だっけ。
何も予定がなければ、気まぐれに珠生とベランダで話す日だ。今夜も彼女は「暑い」とか言いながら、出てくるかもしれない。ビールを片手に、一週間分の愚痴を溜め込んだ顔で。
「珠生、ほんとしょーもないんだよなぁ……」
この世の天国みたいな顔でビールを飲む姿を思い出し、少しだけ頬が緩んだ。
『ねぇ、返事して』
もう一度スマホに視線を戻すと、既読がついたことに気づいた悠愛から、急かされるようにまたメッセージが届く。
「今から行くよ」
ボソリと吐き出した声が床に落ちる。
俺のことを見てほしい──はじまりはきっと、一緒にダンスを始めた小学生の頃だった。
気づかなければ、ただの幼馴染でいられたのに。
淡い恋心が暴いたのは、胸の奥底に眠る薄暗い嫉妬だけだった。
悠愛の瞳が他の男を映すたび、初恋はゆるやかに終わっていった。彼女の未来を壊してしまったあの日までは。もう俺は、この感情の名前を思い出せそうで思い出せそうにない。
「……」
俺は今度こそメッセージを打ち、送信ボタンを押すと、スタッフルームを後にした。
外に出れば、夏の夜のうだるような熱気がゆっくりと息を奪っていく。
街の灯りがゆらゆら揺れ、世界の輪郭があいまいになっていく。
まるで、ひとりどこか遠い夢の続きを見ているようだった。

