アフタージャーニー

 金曜日、いつもの夜、いつもの時間。

「さすがにもう、夜でも暑いなぁ」

 ベランダに足を踏み入れた途端、ムワッとした空気が身体にまとわりついた。時おり吹く風はもはや、ドライヤーの温風なんじゃないかって思う。風が止むと、肌に張り付く湿気がさらに濃くなる。

 私は暑さをしのごうと、手に持ったハンディファンのスイッチを入れた。ベランダの柵にそっと置くと、冷蔵庫でキンキンに冷やしておいたビール缶のプルトップを引く。

「ぷはぁ……! 暑いし、仕事も大変だし、飲まないとやってられないよねっ」

 夏の夜に喉に流し込むビールほど、美味しいものはない。普段なら。爽快感を求めゴクゴクと飲んでも、胸の奥はずっとモヤモヤしたまま。仕事のミスを頭の中で何度も反芻しながら、どう挽回するかばかり考えてしまう。

 あのトップスの裏地は検討会で決まったはずだった。でも検討会後にディレクターの鶴の一声でひっくり返った。そのことがプロジェクトの情報共有ツールで共有されなかった、だからって私が悪いわけじゃないと片付けるのは、あまりにも無責任だ。

「空回りばっかりの一日だったなぁ」

 呟いた言葉が、夏の夜の熱気に溶けていく。
 握りしめたビール缶を伝う水滴が、ひんやりと冷たかった。
 
 私が大きなため息をついた時のこと。隣のベランダから音がした。

「うわ、暑っ……あぁ、いた。どうした? 顔死んでるけど」

 ベランダの柵越しに隣を少し覗き込むと、暑さに顔を顰める侑樹がいた。

 彼もすぐこちらに気づいたみたいで「ベランダで話すって、この暑さじゃそろそろ限界かもな」と呟く。
口ではそう言いながらも、律儀に出てくる。うだるような熱気の中、彼の姿を見つけただけで頬が緩む。今夜も少しだけ時間を共有できることが、なんだか嬉しかった。

「うん……実は今日ね、仕事で大きなミスをしてしまって」