アフタージャーニー

 窓の外は、雲ひとつない夏の空が広がっている。

 過剰なほど冷房が効いているオフィスの会議室は、夏から切り離されたように別世界……のはずが、パソコンの画面を何度も確認する私だけは、額から汗がじわりと滲み出ていた。

 ユニセックスラインの生産スケジュールに、赤い警告が表示されている。入荷予定の生地が、予定よりも大幅に遅れていた。

「芹沢さん、これ……」

 短い夏休みから戻ったばかりの先輩が、画面を覗き込み「まいったなぁ」と呟いた。ユニセックスラインに関わる他のメンバーも次々と会議室に駆け込んでくる。でも、誰も大きな声で責めるわけじゃない。ただ、向けられる視線も流れる空気も重い。

「この品番は、裏地はグレーとピンクのストライプに決まって、取引先に連絡した……検討会後すぐ」 

 私は自分に言い聞かせるように呟いた。

 何度も確認して、先輩の分まで完璧にやろうとしたはずなのに。
 すぐに取引先に連絡したつもりだったのに。

 ところが、検討会後にさらに二転三転していたらしい。その情報が、私のところまで届いていなかった。だから発注は古い情報のままだった。 

「大丈夫。遅れを取り戻す方法を考えよう」

 先輩はそう言って肩を叩いてくれたけれど、責任を果たせなかった自分が腹立たしくて、マウスを操作する手が震える。頭がズキズキと痛み、息が浅くなった。

「イメージビジュアルのメンズモデルなんですが、先方からキャンセルがありまして……」
「嘘やろ? 透明感あって、コンセプトの世界観をちゃんと魅せられる子、なかなかおらへんのに」

 そのまま始まった定例報告会も、別の問題でディレクターたちは頭を抱えていた。けれど私はミスをどう挽回するか、それを考えるだけでいっぱいいっぱい。

 ふと視線を横に向ければ、先輩が私のミスをフォローしようと、スケジュールを必死に調整している。自分が足を引っ張っていることを改めて突きつけられ、胸の奥は重くなっていくばかり。

 なんとかしなきゃ。
 そう思えば思うほど、思考は緩やかに停止してゆく。

 それでも、私はまだ挽回できると信じていた。
 次は絶対に失敗しないって。