アフタージャーニー

「ねぇ! アイス垂れかかってる、どうしたの?」

 隣で川岸の柵に寄りかかる彼女に肘をつつかれ、俺は慌ててアイスを口に含んだ。甘酸っぱいレモンの風味と共にしゅわしゅわと粒が舌の上で弾け、レモンの皮のほろ苦さが残る。
 
「……いや。なんでもない」
「考え事でもしてた? ベランダでもたまに、そういう顔するから」
  
 顔を深く覗き込まれ、ドキッとした。

 隣人で、同い年で、仕事は何をしていて──それぐらいしか知らない相手の瞳の奥に、自分がどう映っているのか直視するのが怖くて、俺は咄嗟に目を逸らす。

「そんなつもりは……俺も考えたりはするけど。その……仕事とかさ」
「そっか。それが悩みなら、侑樹も吐き出して、川に流しちゃったらいいんだよ」

 彼女は川面を覗き込むように柵から身を乗り出すと、突拍子もないことを言い出した。俺にはあまりに脈略がないように思えて、ボソリと呟く。

「なんだそれ。川に流すって」

「例えでしょ、例え! 終わったことは今夜中にサッと流して、リセットして明日からまたスタート。いいことも悪いことも、流れていくものだから」
 
 とっさに返す言葉が見つからなくて、息を吸い込んだ喉がヒュッと鳴った。
 いつもの俺なら「いいことも流すって、容赦ないな」と笑って返すのに。

「珠生。俺のくっだらない話、聞いてくれない?」