アフタージャーニー

 ダンススクールの仕事にも慣れてきた頃のこと。

 スタッフから「あちら(韓国)の練習生オーディションの模擬面接を手伝ってほしい」と声をかけられ、担当するダンスクラスの後、それに立ち会った。

 やりきった表情で帰っていく、高校生ぐらいの生徒たちの後ろ姿を目で追うと、あの頃の自分がオーバーラップしてゆく。あの時の電話越しの悠愛(はるあ)の声が、今日もまた蘇る。

『は。寝坊? なにやってんだよ、早く来いって! オーデ間に合わないだろ』
『ごめーん。急いで駅向かってるけど、侑樹先行ってて。あ、信号青になりそう、じゃあね』

 俺が誘わなければ、急かさなければ──未来は変わっていたかもしれないのに。
 ひとり残された部屋で、じわりと額に汗が滲む。

「ここ、暑いな……」

 エアコンから吹き出すぬるい風に手をかざしても、あの頃感じていた確かなものは、もう掴めない。

『何時ごろ来る?』

 仕事を終えた俺を待っていたのは、届いたばかりのメッセージ。
 短いテキストを打ち込み、送信ボタンをタップすると、俺はスマホをポケットに突っ込んだ。

 淡く、甘やかだった遠い記憶は、数えきれない季節を跨いで棘に変わった。いつの間にか乾ききった心と現実に、チクチクと突き刺さったまま、抜けることはない。