アフタージャーニー

「へぇ……知らないな。で、さっき仕事がどうとか」
「それねっ! 選ばれるとか、任せてもらえるって、期待されてるってことだから。完璧にやらなきゃって思うの」

「完璧な人間なんていないと思うけど」
「でも、早く一人前として認めてもらいたくって……」

 彼女はため息をつくと、薄い雲が浮かぶ紺色の空を見上げた。

 チラリと横顔を盗み見れば、彼女の瞳の奥に強い光があった。
 希望に満ちて、何かを踏み出した人だけが持つ輝き。

 ……その姿に、昔の自分が映し出されてゆく気がして、ドキリとした。
 過去の記憶が輪郭を帯びそうになって、俺は目を逸らした。

「もっと肩の力抜けば? 自分の価値は自分で決めればいい」 

「えっと…そうなのかなぁ。就活の時も今も、人からどう見られてるとか、そんなことばかり考えちゃう。そう言える侑樹くんは、すごいな」

「いや、別に俺は……てかさ、食べないの?」
「ああっ。温かいうちに食べなきゃ。立ち食いスタンドみたいだよね、このベランダ」

 彼女は軽く笑うと、箱を開けた。
 俺は小さく息を吐き、ベランダの手すりに体重を預ける。

 ぬるい風が通り抜けてゆく。

 誰よりも先にダンスを覚え、愚直なまでに理想のアイドルを目指した。
 努力で手に入れたものも多かった。
 
 同時に、全ての価値を他者判断に委ねる世界の残酷さを知った。  
 自分の価値は自分で決めろなんて──どの口が言っているんだ。笑える。

 俺は誰よりも真逆の価値観に生かされているのに。