アフタージャーニー

 ネオンが煌めく夜の街は、いつだって活気に満ちている。

 毎日のように通った韓国料理屋『オンマの台所』とも、今夜でお別れ。私は最後のお客さんを見送ると、照明が少し落ちた店内をぐるりと見渡した。

珠生(たまき)、今までありがとうね」

 オンマ(お母さん)がカウンター越しに優しく微笑む。

 店内は、お忍びで訪れた韓国アイドルや芸能人のサインが壁にずらりと飾られている。大学の友人に「推しのサインが飾られてるんだ」と連れてこられたのがきっかけで、私はそれから大学卒業まで、ここでバイトを続けてきた。

 バイト仲間からも次々とあたたかい言葉をかけられ、目頭が熱くなった。ずっと使ってきたエプロンを外すのが名残り惜しくて、キュッと胸に握りしめる。

「本当にお世話になりました。 社会人になったら、オンマの作るキムチを食べられなくなるの、寂しいな……」

アイゴー(おや、まぁ)、泣くんじゃないよ。オンマの特製キムチ、持って帰りなさい。新社会人として毎日がんばるのよ」

 オンマから特大タッパーを差し出され、私はカウンターに駆け寄った。

 誰かが「珠生の門出を祝って乾杯しよう」と言い出した。
 私は笑って「じゃ、私はいつもの。チャミスルのマスカット!」と返した。

 グラスや瓶を重ね合わせ、みんな笑って、少しだけ泣いて。
 フワフワするような高揚感と寂しさが混ざって、胸の奥がじんわり熱い。

 店を出ると、ひんやり冷たい春の夜風が頬を撫でた。

 これから、新しい私が始まる。きっと、うまくいく。
 ずっと憧れていたアパレルブランドの一員になるんだ。

 キラキラ輝くネオンが、私の進む道を照らしてくれる気がして──私は軽い足取りで帰宅の途についた。