アフタージャーニー

「なに?」

「あのっ、またベランダで会ったら、話しかけてもいい? 同い年と話すの久しぶりで、楽しかったから……その」

 絞り出した声が、上擦った。配属先が違う会社の同期とも、互いに社会人になった友人たちともなかなか会えず、心の内を話せない日々が続いていたから。

 彼は少し驚いた顔でこちらを振り向くと、夜風に髪を揺らしながら、小さく息を吐いた。

「ベランダって、わざわざ出てこないと会わないんじゃない?」
「そっか……そうだよね。今夜はたまたまだよね」

 話し相手がほしいなんて、私の勝手だ。彼にだって友達がいて、恋人もいるかもしれない。やんわりと否定してくれた彼の優しさに、胸がチクチクする。

 今夜はもう、おとなしく部屋に戻ろう。 
 そう思った瞬間、彼がぽつりと呟いた。

「そうじゃないって。金曜夜なら、だいたいこの時間には家にいるから。おやすみ」

 春の宵は、胸に予感を灯して過ぎてゆく。