アフタージャーニー

「……うん、いたよ。長いこと」
 
 わずかに引き結ばれた薄い唇から、言葉にできないせつなさが滲み出る。
 彼の横顔に、ほんの一瞬影が落ちた気がした。

「そうなんだ。そうそう、初めて見た時ね。かっこよくてお忍び来日中のアイドルかと思っちゃった」

 深く踏み込んではいけない──そんな空気を感じて、私は慌てて明るく続けた。
 
「それはどうも。そういうの詳しいんだってね」
「詳しいってほどじゃないけど。韓国料理屋でバイトしてたし、友達が韓国アイドル好きだったから、その影響で……オーディション番組とか見たりしてたんだ」

「へぇ。最近、日本人も活躍してるもんな」
「えっと、ほら。有名な番組からデビューした、DROP(ドロップ)のシキくんとかアンジくんとか。すごいよね……あ、知ってる? 異国に行って勝ち抜いて、スターになったんだよ?」

「異国って。言い方おもしろいな、てかよく喋るね」
「あっ、ごめん。そんなつもりじゃ」
 
 ついつい熱が入った私に「そういうの、オタク特有の早口って言うんだろ」と彼が少しだけ笑った。興味のない人にそんな話をしても迷惑だと、それ以上は口を噤んだ。

 ふと彼が「俺も最近、仕事始めてさ。ダンスとか教えてるから」と静かに呟いたのは、キムチを食べ終えた頃。

「じゃ、こっちは兄貴に渡しておく。ごちそうさま」
「うん。おやすみなさい……あの! 侑樹くん」

 どちらともなく、そろそろ部屋に戻るかと背を向け合う。でも、どこか名残惜しくて、私はもう一度声をかけた。