アフタージャーニー

 朝イチの会議から戻ってきた先輩に凡ミスを指摘され、私は慌ててパソコンの画面を覗き込む。先輩の「まだ入社して一ヶ月で、この業務量だからね。ひとつずつ確実に覚えていけばいいよ」という優しいフォローが身に沁みた。 

 オンライン発売の準備が終わる頃には、カフェラテはすっかりぬるくなっていた。
 
 新入社員は片手で数えるほどしかおらず、私は韓国料理屋での発注経験を買われて、生産管理部門とECサイト運営のサポートを兼務することになった。「アパレルの本社勤務って華やかそう」と誰かに言われたけれど、舞台裏は全然違った。

 私は飛び込んだこの環境で、抱えきれないほどの仕事をこなすことに精一杯。
 カフェラテを飲み干せば「早く覚えなきゃ」と、効率の悪さにため息が出る。

 昼休憩を終えて自席に戻った時のこと。

「そうだ。この後の生産管理のミーティングだけど。追加生産の品番のロット数(生産数量)ミニマムで行けるか先方に確認した?」
「え? 追加生産数決まってから連絡するようにって、この前」

 先輩の言葉に、ドキリと心臓が跳ね上がった。

「今回パーツが変わるから、検討するにあたって先に見積書貰っておきたいの」
「そ、そうだったんですね! すぐに先方に連絡しますっ」

 慌ててパソコンにログインした手が、ふと止まる。

 メールと電話、どっちで連絡するのがいいんだろう──両方? でも今から連絡したって、会議には間に合わないのに? 期待に応えなきゃいけないのに、なかなかついていけない自分がもどかしい。

 込み上げてきた苛立ちを抑え込めば、胸の奥が重くなってゆく。

「うぅ、血糖値上げたい……」

 午後は爆発寸前の頭をフル回転させて乗り切ったおかげで、夕方になる頃には頭も身体もクタクタだった。私は救いを求めるように、デスクの引き出しに忍ばせていたわさびアーモンドのパッケージを手に取る。

 ハングル文字が書かれたそのお菓子は、隣人のお兄さんこと蒼樹さんがお裾分けしてくれたもの。

「これ、美味しいんだよねぇ」

 この前、廊下でキムチをぶちまけた時は、恥ずかしさのあまり今すぐ消えたいと本気で思った。片付けを手伝ってくれたどころか、後日こうやってお菓子のお裾分けまでいただいて。私はもう隣の部屋に足を向けて寝られない──じゃなくて。