アフタージャーニー

「コーデよし、メイクよし、忘れ物なし……っと!」

 週末、夜更かしをしたあとの月曜朝は、少しだけ眠い。
 玄関の横にある細長い鏡で、頭のてっぺんからつま先までくまなくチェックして──よし! 私は大きく息を吐き、気合いを入れると家を出た。

 駅までの道のりを歩けば、気持ちのいい春の風が首筋を撫でる。
 どこか新緑の若葉の匂いも含まれている気がして、足取りも軽い。

「この服が似合うような、完璧な私を目指さなくっちゃ」

 トレンドカラーの茶色のミディアム丈トレンチコートは、シアー感のある素材の仕立てが顔まわりを華やかに見せてくれるお気に入り。タックの入った落ち感のある素材のオフホワイトのパンツを合わせて、小物
はアクセントカラーの……と、毎日気が抜けない。

 もちろん、入社したアパレルブランドで揃えている。

Ditto(ディット)の服を着ると、自分に自信が持てるんです! 企画に関わるのが夢です!』

 最終面接で拳を握り締め、熱く語った記憶が蘇るたび、自分の猪突猛進ぶりに笑ってしまう。

 コーディネートにひとつ取り入れるだけで、あっという間にセンスのいいオシャレな人を作り上げてくれる服。
 
 ファッション系インフルエンサーが立ち上げた、トレンドに敏感な二十代・三十代の女性をターゲットにしたアパレルブランド 『Ditto』は、巧みな事業戦略でわずか五年で年商三十億に急成長した。事業拡大に伴う新卒採用を実施し……私は運良く、今こうやってオフィスにいる。

 大学に入った頃の私は、服なんて着られればいいぐらいの無頓着さだった。それは裏を返せば、高校時代まで制服に頼りすぎて、何を着たらいいかわからなかったから。「なんかダサいな」と頭を抱える私を見かねた、ひときわ目を惹くセンスのいい友人が店に連れて行ってくれた。毎月、バイト代が出るたびに行ったり、新作発売日はオンラインでチェックしたりしてたっけ。

 ……なんて、懐かしさに浸っている時間はない。

「芹沢さん。今週発売の新作のスタッフコーデのキャプション、数多いけど昼までにオンラインに上げられる?」

「はい、ちょうど今やっていて……もうすぐ終わります」

 月曜日は自席に着いたその瞬間から、息をつく間もなく仕事が襲いかかってくる。
 出勤前に買ったカフェラテは、かろうじて一口、二口飲んだぐらいだ。

「じゃ、午前中はECサイトまわりを全部片付けて……って! 新作のトップスのキャプション、スカートの説明のままコピペされてない? あとカラー名もオリーブに変更されたはずだけど」

「あぁっ! 待って……本当だ、色名も再確認しますっ」