アフタージャーニー

 Seoul, 10:00PM

 夜風が川面をサラリと撫で、遠くの橋の明かりが水に長く伸びる。

 明日の今頃、もうここに俺はいない。

 漢江(ハンガン)はいつもこうだった。
 どこまでも広く、ゆったりと流れ、どんな感情も受け止めて、ゆっくりと溶かしてくれる。

 けれど、何も変えてくれはしなかった。

 どうしようもない夜に、何度ここに来ただろう。
 こうやってひとり川辺のベンチに座り、いつもぼんやりと向こう岸の明かりを眺めた。

 静かな波の音に耳を澄ませば、川の湿った匂いが鼻をくすぐり、夜の空気が肌にまとわりつく。

 星を散りばめたネオンの光が、川面に揺れる。
 その下に広がる深い水の底に、持て余した諦念を沈められれば、それでよかった。

 やっと終わった、やっと帰れる。
 夢はどこまでが執着で、どこからが後悔だった?

 手に掴んだスマホに視線を落としても──さっき送った 『明日帰るよ』 は既読にならないまま。

 少し強くなった風が、指先の熱を奪っていく。
 俺は最後に深く息を吸い込むと、小さな声で呟いた。


「さよなら、漢江」